ずっと声優以外の方々が出る流れも作りたかった

AD-LIVE 2022
©AD-LIVE Project

――『AD-LIVE 2022』最大の仕掛けは、やはり舞台で活躍する俳優陣を入れたこのキャスティングかと思います。この新しい試みが生まれた経緯を教えてください。

 

そもそも『AD-LIVE』というフォーマットは器にすぎず、誰がやってもできるように作っているつもりなんですね。今は“声優さんの企画”と思っている方が多いと思いますが、僕は「声優だけじゃなくて誰でもできるんだよ」と長年思ってきましたし、『AD-LIVE』という名前をつけて今の形になったときからずっと、いつか声優以外の方々が出る流れも作りたかったんです。

大抵は2人で出演していただく構造になるので、その片方を舞台俳優さんにするアイデアを過去何度も出していたんですが、やっぱり刺激が強いかなと。僕は「物事は変わっていくことが一番楽しい」と思っているので、『AD-LIVE』も毎年フォーマットは一緒だけれど中身を変えているんですが、世の中は変化にドキッとする人のほうが多いんですよね。考えて見れば僕も小さい頃、スーパー戦隊が変わるときには「寂しいな」と思っていましたから、誰でも劇的な変化にはそう感じるものなんだろうなと。だから他業界の方に入ってもらうという大きな変化を起こすことに対しては、実は長い間探っていたんです。

でも今回は2対1ですから、検証を重ねるごとに「声優陣が2、俳優陣が1って形にできるじゃん!」という思いが湧いてきて、「これなら思い描いていた夢を実現できるぜ!」と思ったんですよね。このチャンスを逃すまいということで、今回踏み切りました。川尻さんは演劇畑の方ですから、以前から俳優さんに出ていただきたいとご相談をしていたので、「ずっと言ってたあの件なんですけど、できますかね?」「やりましょう!」ということでキャスティングしていただいたという流れになります。

 

――そうして「声優陣 対 俳優陣」という形になったんですね。

 

それが今回最大の特徴ですし、僕としては大満足の仕掛けになりました。きっと俳優陣は声優陣とはまた違うことをやってくれると思うんですよ。声優陣はやっぱり言葉が巧みで、相手に発した言葉がどういう風に影響を与えるか、そしてそれがどう返ってくるか、それに対してさらにどう返すか、という“言葉のリレーション”の能力値がめちゃくちゃ高いと思うんです。そういう意味で声優は『AD-LIVE』にすごく向いている。

一方で、俳優陣は言葉の感覚も鋭い方ばかりだと思いますが、声優陣とはまた違った“身体やその空間を使った表現”をずっとやってらっしゃる方々。僕ら声優の“言葉に力点を置いている表現”とはまた違って、その空間のどこに行ったら何が面白いのかを嗅ぎ分けて実行する能力値というのは、圧倒的に高い。似ているようで違う角度のお芝居が観られるというのが、今回の『AD-LIVE』最大の魅力ですし、化学変化を起こしてくれる一番のポイントかなと思います。

 

実は『AD-LIVE』はとても正統派な演劇

 

――『AD-LIVE』には様々な仕掛けがありますが、これまでで特に手応えがあった仕掛けは何でしょう? “アドリブワード(劇中で出演者が引く様々な言葉。言葉は公募され、完全にランダム)”というのが、やはり大きな発明でしょうか。

 

アドリブワードは独自の発明ではないんです。そもそも僕が即興劇をやろうと思ったのは、二十歳のとき。お芝居の稽古でエチュード(即興芝居)をやっていたんですが、それがとにかく面白かったんです。その場で言ったことが真実になっていく感覚があって、「これは演劇の基本だけど、めちゃくちゃ大事なことだよな。これ自体エンタメしてるな」と。それを観客に見せるものとして作ったのが『AD-LIVE』です。

そしてエチュードを経験してから、インプロ(インプロビゼーション=即興劇)について調べていったら、そのひとつに「ペーパーズ」というジャンルがあることを知ったんですね。無作為に言葉を書いた紙をステージ上にばらまいて、それを拾ってセリフや設定として使いながら物語を構築していくという、かなりバラエティ色のある競技で。この「ペーパーズ」の演劇を20代の頃に観たことがあって、めちゃくちゃ面白かった。「これはぜひ組み込もう!」と考えて、「ペーパーズ」を僕なりに解釈して作ったのが『AD-LIVE』であり、アドリブワードであり、という感じなので独自の発明ではないんです。

 

――海外では頻繁に上演されるほど一般的と聞くインプロですが、『AD-LIVE』はそれをかなり正統に踏襲されているんですね。

 

そうなんです。実は『AD-LIVE』はインプロの基本に近いことをやっていて、すごく演劇的なものとして作っているんですよね。

 

【PROFILE】
鈴村健一 すずむら・けんいち

大阪府出身。TVアニメ『マクロス7』モーリー役で声優デビュー。『おそ松さん』イヤミ役、『銀河英雄伝説 Die Neue These』ヤン・ウェンリー役など、多くの人気作に出演。さらにラジオパーソナリティや音楽活動など、幅広い分野で活躍。舞台『AD-LIVE』の総合プロデューサーや、自身が所属する声優事務所インテンションの代表取締役も務めている。
YouTubeチャンネル「鈴村健一の声優のかじり方」では声優志望者に向け動画を配信中。

 

鈴村健一インタビュー第2回は明日公開予定。お楽しみに!
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