少年と老年の声を緩急自在に使い分ける
次なるは「汚れっちまった悲しみに」というフレーズで誰しもが知る、中原中也の『山羊の歌』を。神尾が浅く座りながら、少年と老年の声を自在に使い分け、繰り返される「悲しみ」の言葉にレイヤーを生みだしていく。そこは声優・神尾晋一郎の面目躍如。加えて間宮がリズミカルにハーモニーを重ねれば、鳥肌が立ってしまうのは当然だった。
おもむろに椅子から立ち上がった神尾が朗々と語り出したのは、石川啄木の『閑天地』。カラフルで爽やかに自然と戯れる言葉を、グルーヴ感たっぷりのナンバーへ昇華。そこからオリジナル曲『崖端歩き』。愚かと言われながらも危険な道を歩む人の心を、崖というメタファーを入れ込みながら「楽しければいいじゃないか」という言葉で胸を捉えるこの曲。好奇心の向くまま突き進む人に、神尾と間宮が先達として、力強いエールを送っているようにも聞こえたのはこの日のハイライトの一つでもあった。
フィナーレを飾るのは、『朔にー真正の画工ー』。KATARIの始まりとなったこの「序文」が、常にアップデートされているのを、この独奏会でも再確認した。
彼らの迫力や存在感を味わい、言葉と音楽がイヤフォンやヘッドフォンで聴く際とは別格のものに変貌して、鼓膜に響く。その余韻感に、いつまでも浸らされてしまう独奏会だった。聴き手の身体、心を揺らし続ける詠手、紡手のステージは、彼らが身体を心を揺らして生み出したものだからに違いない。それは「KATARIを体験する」という言葉でしか言い表せないのではないだろうか。いまは、次なる「体験」の日をただ待ちたい。
《公演情報》
KATARI独奏会-聖域-sanctuary-
公演日:2022年4月2日(土)
会場:神奈川芸術劇場ホール
【INFORMATION】
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《KATARIとは?》
声優・神尾晋一郎とサウンドプロデューサー・間宮丈裕(DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ)による音楽×純文学樂団。
KATARI第一集『開架』販売中
https://nex-tone.link/4595121952018