「ここで全部終わらせていいよ?」という問い

©︎サマーゴースト

Q.本作では、ある「死」、そして「生」を描く際の描写の繊細さも印象的でしたが、ご自身の人生観を反映されているところはありますか。


「僕はこの作品のキャラクターほど、山あり谷ありな人生は送ってはいないので、必ずしも自分の経験則に基づいているとは言えません。ただ、どんな選択の先にも死というものがいつでもあると感じながら生きてきました。それはイラストレーターになると決めたときもそうですし、人生一度しかないと口にするときの裏側にあるのは死だと思うんです。その意味では、あらゆる選択の先で、すぐ側にもあると感じているのが「死」だな、と。その死というのは誰しもに共通することだからこそ、すごく丁寧に描かなかればならないことだと思っていました。
 そして、このキャラクターたちがなぜ生きることに対してネガティブなのかということを注意して描くなかでたどりついた結論は、辛い出来事を描いたから辛いという表現になるわけではないということです。辛いという現実を隠して生きている人間が出てきたときに、観る側に絶望感が伝わるし、それに共感できるんじゃないかと。そういう意味では死そのものを描く描写を避けていったので、それが映画全体の見え方に繋がっていったように思います」


Q.そうした「死」や「悲劇」の描き方に、監督の核にあるテーマ性やポリシーをも感じました。


「今作は、『“ここで全部終わらせていいよ?”という選択肢があったら、どうするか』というのが個人的なコンセプトでした。つまり、人生を終わらせるとかすごく大きな壁ではなく、目の前にポンとここでこれはおしまいというものが提示されたとして、それでも頑張るかどうかが本質的なことだと思うんです。人はその問いとどう向き合うかというのが僕の中のテーマでした」

 

Q.その答えとさらなる問いが、この映画の中にありますね。


「そこは大きなものを伝えている作品になったのかなとは思うのですが、押し付けがましくしたくない気持ちもあったんです。これも僕からの視点の一つでしかないですし、誰かを説得できる事柄でもありません。キャラクターを通じて誰かの背中を押せるような温度感は大切にしたところです」


Q.観終わったあと、誰かと会話をしたくなる映画ですし、『サマーゴースト』に影響を受ける方はたくさんいると思います。


「この作品が誰かにとってのそういうものになれば光栄です。僕はイラストレーターの頃からですが、今回もただ映像を作るということ以上のコンセプトをもちたいと思っていて。それは僭越ながら、個人的なものから社会に対してのメッセージ的なものまで、ちゃんと作品という形を通して、何かしらの疑問を投げかけられたらいいなと思うんです。ですから、観てくださる方が良くても悪くても何か言いたくなるというだけでもありがたいんです(笑)」


Q.(笑)。監督ご自身には、本作を経てどのような変化がありましたか。


「プロセス面ではたくさん課題があります。うまくいったところもあれば、そうでないところもあると思います。今後、描きたい内容に関しても自分の中でたくさんありますし、やはりそれは人生経験で変わってくるのだということはここ数ヶ月だけでも身に染みて思っているところがあります。そこは時々の自分の気持ちと自分たちの創作を観てくださる方の感想を見ながら、次を決めていきたいと思っています」


Q.あらためて、この作品はご自身にとってどんな作品になりましたか。


「ちょっとでも自分の可能性を広げたくて始まった作品なので、僕にとって『サマーゴースト』はイラストレーターという道を選んでからの一つ目のゴールが達成されたという意味合いが強いです。そして、この作品には僕の死生観も反映されていますし、友也に自己投影している部分もあり、自分としての過去への区切りになる作品だなとも思うんです。その点でもすごく大事な一作です。loundrawとしてもそうですが、いち人間としても一つのゴールから、もう一つのスタートラインに立ったという気がしています」

 

INFORMATION

©︎サマーゴースト

『サマーゴースト』
全国公開中

【CAST】
杉崎友也役:小林千晃、春川あおい役:島袋美由利、小林涼役:島﨑信長
佐藤絢音役:川栄李奈

【STAFF】
原案/監督:loundraw
脚本:安達寛高(乙一)
キャラクター原案:loundraw
音楽:小瀬村晶、当真伊都子、Guiano、HIDEYA KOJIMA
企画:FLAGSHIP LINE
アニメーション制作:FLAT STUDIO
製作・配給:エイベックス・ピクチャーズ

【STORY】
「サマーゴーストって知ってる?」
ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。都市伝説として囁かれる“通称:サマーゴースト”は、若い女性の幽霊で、花火をすると姿を現すという。自身が望む人生へ踏み出せない"友也"。居場所を見つけられない"あおい"。輝く未来が突然閉ざされた"涼"。彼らにはそれぞれ、サマーゴーストに会わなくてはならない理由があった。生と死が交錯する夏の夜、各々の想いが向かう先はーー。

公式サイト:https://summerghost.jp
公式Twitter:@summerghost_PR
©︎サマーゴースト

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