「『失はれる物語』は、読んだときの衝撃や気持ちを思い出せる」アニメ映画『サマーゴースト』loundraw監督独占ロングインタビュー【後編】の画像
©︎サマーゴースト

公開中の映画『サマーゴースト』でアニメ映画初監督をされた、loundraw監督。前編に続いて、後編のインタビューでは、監督の作り手としてのパーソナルな部分と本作の核にあるものに迫ります。

 

※   ※   ※

辛い思いをしたことから、本当にやりたいことを見つめていくということを覚えていった

©︎サマーゴースト

『サマーゴースト』場面写真一覧はコチラから!

 

Q.監督のパーソナルな部分もお伺いしたいのですが、監督は本作のキャラクターたちのような10代の頃はどのように過ごされていましたか。


「僕は勉強をすごく頑張っていました。とはいえ、一番を取れるような人間ではなかったので、頑張ってはいたけれど、もっとすごい人がいるなと思っていた時期が10代の頃でしたし、そういった輪から絵に逃げていたところもありました。絵が仕事にできたらいいなと思うけれど、それもすごく狭き門だし、自分の絵が誰かにちゃんと見てもらえるものか、選ばれるものかわからないわけです。その気持ち的には、主人公の友也に通じるところもあるのかなと思います」


Q.すると、10代の頃お好きだったのは絵を描くこと。


「そうですね。歌や音楽作りもしたりしていましたけど、そういった時期ってやはり褒められると嬉しくて(笑)。いろんなことをやっていましたね。けれど、その時期の自分のパラメーターの中では絵がいちばん得意でした」


Q.逆に、これは辛かったと思うことはどんなことですか。


「やはり勉強ですね。10代の皆さんはそうかもしれませんが、これはしなければいけないと言われることがありますよね。それが社会的にある程度の合理性を持っているとわかりつつも、自分が自信をもって、勉強と向き合えないことが苦しかったんです。やらないといけないけれど、自分よりもっと勉強に向いている人間がいることが分かってしまっていて、もう逃げ場がないし、気持ちとして続かないんです。自分でできることは全部やっているけれど、結果が出ないということもありますから。今思うと視点を変えれば、楽しめたところもあるかもしれないですが、自分の場合は学生時代に辛い思いをしたことから、逆に本当にやりたいことを見つめていくということを覚えていきました」


Q.監督がそういう時代に出会って、気持ちが救われた作品はありますか。


「今回ご一緒した乙一さんの『失はれる物語』はいまでも、読んだときの衝撃や気持ちを思い出せます。中学時代に読んで、中身を完璧に思い出せるものが少ない中で、この作品は本当に僕の記憶にあり続けています。死生観であるとか、変えられないものとの向き合い方、さらに美しいとは何かというのを、振り返ると乙一さんから影響を受けてきていると思います。
 僕が言うのも恐縮ですが、たぶん感性が似たところがあって、だからこそすごくこの小説に救われたのかなと思います。もちろん、他にも小説は読んでいたとは思うのですが、今出てくるのは乙一さんの作品ですね」

 

Q.今作で映画初監督になりますが、影響を受けた映画などはありますか。


「今回の作品で参照した点で言えば、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』という映画です。お話ということではなく、ビジュアル作りとして、ですね。僕らのような小さなスタジオで、既存のアニメの作り方というところにのっとってやると、細かさや精確さで新しいことを提供することが難しいのです。そこで色味や構図のコンセプトなど、より映像の設計図の部分で勝負をしようという時に、個人的に僕の好きな絵作りとして、こういうことがしたいということを示した一本で、この映画を心に携えて制作していました」

 

Q.ルックと色が象徴的な映画で、かつてヒーローものでスターとなった役者が現実と幻惑的な世界を往復します。


「舞台裏が真っ青だったり、そこから光が射していたり、色一色で状況がわかる巧みさが仕掛けられた映画なんです。ワンカット長回し的な映画でもあるので、特にそこに気を遣っていることを感じますし、参考にしたところが多いです」

 

Q.マイケル・キートン演じる主人公も、ある劇場の内外を闊歩しますが、その箱庭感も本作に通じるように思いました。


「本作もある意味クローズな世界の話ではあるので、ビジュアル部分で、緩急を欲したところがあります。そこで、この作品を参照したところがありますね」

©︎サマーゴースト
  1. 1
  2. 2