■島を封印しなかったことが敗因

 では、なぜエスタード島だけ封印しなかったのか。オルゴ・デミーラ様は、世界征服を成し遂げるために「災いの種をまき、人間たちを絶望に追い込んだところを一気に闇に引きずり込む」という手段を取りました。これが大陸が封印されていった理由です。

 本作の主な物語は主人公たちが石板を集め、封印された各世界を回り、問題を解決することで封印を解いていく、というものでした。その際の各世界のお話はどれも暗いものが多かったと思います。勇敢な戦士を魔物に変え、村人に殺させようとしたり、石化の雨を降らせたり、とんでもない自然災害を起こしたり、神官をニセモノにしたり、などなど。さらに解決しても後味の悪い結末だったこともあったでしょう。それはすべて、オルゴ・デミーラ様がまいた災いの種によって「絶望に追い込まれている状態だった」ために封印されてしまっていたからなのです。

 もちろんすべてに顔を出すことはできませんので、ある程度は配下の者に方法などは任せている節はありますが、それでも魔王様本人が世界征服のために神様一行と数百年にわたって死闘を繰り広げているわけですから文句はありませんね。

 さらに言えば、真実の姿を映す「ラーの鏡」を自身の元に隠しておいたことも用意周到ですよね。配下の者に任せたり、場所を把握していなかったりすれば正義の者に奪われてしまい、絶望を与えることができなかった可能性もあったわけですから。さすが「最強」。

 さて、話を戻しますと、エスタード島もおそらく封印するつもりではあったのだと思います。が、この島はもともと自然があふれる山々に囲まれた島でしかなく、人が住むような場所ではありませんでした。オルゴ・デミーラ様がとった手段が「人間を絶望に追い込むこと」が肝であったことを考えれば、見逃されるのは致し方ないですね。むしろ効率的ですらあると思います。

 しかし、まさかこのエスタード島を残したことが大きな敗因になるとは思いもよらなかったことでしょう。ちなみにエスタード島に神殿があるのは、神様が「オルゴ・デミーラに負ける前に人類の希望」として残したものなので、この時点でオルゴ・デミーラ様は神様にしてやられていたのかもしれません。試合に勝って勝負に負けた、とも言いましょうか。

 さて、世界征服まであと少し!と迫っていたオルゴ・デミーラ様ですが上記の通り、主人公一行に2度負けてしまいます。しかし、その1度目の敗北後の振る舞いも実に「最強」らしいものでした。

 まず、1度目の戦闘で主人公たちに不意を突かれ敗れてしまったオルゴ・デミーラ様でしたが、魂だけは生き残ることができました。そして、ユバールの民による儀式で「神」をかたって降臨します。

ユバール族の女戦士・アイラ

 この方法、すごいですよね。「オルゴ・デミーラを倒したぞ!」と思っている人々の前に神をかたって現れ「魔物を殺めるな」と民に「神として」告げることで配下の者を保護し、復活してしまった大陸のうち四精霊の居所とダーマ神殿を封印するというなんとも効率的な嫌がらせで再び世界征服に王手をかける、というえげつなさ。

 これには当時の私も「なんてヤツだ!!」と憤慨しましたが、今では多少「尊敬」すらしています。この執念と頭の回転の速さ、そして狡猾さにおいて上回るラスボスがいるでしょうか。見た目がグロテスクなばっかりに人気がなく、大魔王ゾーマに後れをとっている感はありますが、やはり「最強」はオルゴ・デミーラ様です。

 ラスボスとしての威厳やその功績だけでなく、物語のメタ的な部分でも『ドラクエ3』でいうところのバラモス役、『ドラクエ5』でいうところのゲマ役をもいわば担っているわけですから。文句なく「最強」ですね。

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