■真面目とおふざけの絶妙なバランス

――今作は、京極尚彦監督が初めて『しんちゃん』の劇場版を監督されました。

神谷 今回は、“しんちゃんとしんちゃんが手にしたミラクルクレヨンから生み出されたラクガキたちは世界を救えるのか!?”というシンプルな物語。ただし、しんちゃんはクレヨンで“ブリーフ”という、大人から見たら超くだらないものを描いてしまうわけです(笑)。さらにしんちゃんは、欲望の赴くままに“ななこおねいさん”と、救いのヒーロー·ぶりぶりざえもんを描く。この3人としんちゃんの“ほぼ四人の勇者”が世界を救おうとするという話なのですが、僕は台本を読んで「めちゃくちゃおもしろい!」と思いました。王道のストーリー展開を見せながら、なおかつおもしろいと思わせるってすごい才能ですよね。台本を読みながらどんどん引き込まれていくんです。京極監督は『ラブライブ!』や『宝石の国』も手掛けた監督ですが、やっぱりすごいセンスと才能の持ち主なんだなと思いました。

――収録現場では京極監督とどんなお話をされましたか。

神谷 役に対しての指示みたいなものはとくになかったんですけど、ぶりぶりざえもんの重要なシーンに関しては、「昭和のスターみたいにやってくれ」と言われました。令和のこの時代にそう言われてピンと来る人って少なくなってきていると思うのですが、監督にそう言われたときに、僕は“本当に王道にこだわっている方なんだな”と思いました。そこに“王道”を作る強い意志を感じました。だから、僕も昭和のスターを意識してぶりぶりざえもんを演じました。

――アフレコの雰囲気はいかがでしたか。

神谷 とてもスムーズでした。劇場版ってだいたい2日に分けて収録するんですけど、前に僕が『映画クレヨンしんちゃんバカうまっ!B級グルメサバイバル!!』にゲスト出演したときは一日で録りきってしまったので、二日目というものを経験しなかったんですね。今回は、一日目のアフレコが終わって「じゃあ、また明日ね」と言えたのがすごく楽しかったですね。また明日、あそこに行けるんだなと思いながら帰ったのを覚えています。あとは玄田哲章さんがおかしかったなぁ。玄田さんって、普段はアクション仮面という持ち役があるのに、実は今回は全然違う役で出ているんです。なぜあの役を玄田さんに振ったんだろうっていまだに思います(笑)。

――今回玄田さんは、敵側の一人を演じているんですよね。

神谷 はい。『しんちゃん』って変わったキャラクターがたくさん出てくるけれど、今回はその中でかなり強烈なキャラクターを玄田さんが1ミリも手を抜かずに演じてらっしゃいます。ビジュアルも含めて何もかもがインパクトがあって最高ですよ。あえて言うと、絶妙に変態(笑)。玄田さんがやっているからトータルバランスで成立していると思いますので、そこもぜひ注目していただけたらと思いますね。

――『しんちゃん』は長い間人気がありますが、その理由はなんだと思いますか。

神谷 時代とともにしんちゃんの言っていることややっていることが変わってきているからじゃないでしょうか。たとえば、昔よくやっていた“ぞうさん”のギャグは、いまはもうやらなくなっているでしょう。そして、みさえのことも“かーちゃん”と呼ぶようになっている。時代のコンプライアンスにしんちゃんも対応しているんですよね。だからといって僕は『しんちゃん』は普遍性がないとは思っていないです。しんちゃんはずっと、その時代の子どもたちが見たいと思う幼稚園児を演じてくれている。だからみんなの心に刺さるんだと思います。そのうち“ケツだけ星人”もダメになるんじゃないかなとか考えたりすると、それはちょっと寂しいですけど(笑)。

――『しんちゃん』も時代の波に揉まれてきたんですね。

神谷 そうですね。でも『しんちゃん』は教科書ではないし、娯楽ですから。子どもたちが見たいと思うものを映す鏡。「子どもにこんなもの見せるな」って大人は言うかもしれないけれど、昔のほうがよっぽどむちゃくちゃな表現をやっていたわけで(笑)。でも、その中でもいいものを作ろうと、クリエイターたちは闘っていますから。彼らはしんちゃんを愛して、しんちゃんを大切にしている。表現できる範囲の中で、その時代でいちばんおもしろいものを見せようと、作品を作っているのだと思います。

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 現在発売中の『声優MEN vol.17』では、引き続き神谷浩史のインタビューを掲載。京極尚彦監督やキャスト陣へのインタビューを交え『映画クレヨンしんちゃん激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を特集している。

■PROFILE
神谷浩史/かみやひろし
1月28日生まれ、千葉県出身。第2回声優アワードサブキャラクター男優賞に続き、第3回声優アワード主演男優賞、ベストパーソナリティ賞を受賞し、声優アワード史上初の主要三冠を獲得。近年の主な出演作に『ONEPIECE』(トラファルガー・ロー)、『夏目友人帳』(夏目貴志)、『ゲゲゲの鬼太郎(第6作)』(石動零)、『斉木楠雄のΨ難』(斉木楠雄)、『おそ松さん』(チョロ松)、『かくしごと』(後藤可久士)、『スケートリーディング☆スターズ』(篠崎怜鳳)ほか。

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK2020

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