■ガソリンと硝煙の香り漂う…秀逸な世界観設定

マッド・マッスルにバッド・バルデスなど、戦車を降りないと戦えないボスも。

 さあここまで書くとこのゲームは「荒廃した世界を戦車でぶっ飛ばして遊びまわる非日常的なRPG」だと感じる方も多いかと思います。もちろんそうした側面もありますし、生身では苦戦した敵を戦車に乗ってぶっ放す爽快感はファンタジーRPGでは到底味わえるものではありません。

 しかし僕は、このゲームの素晴らしいところは「非日常な世界が身近に感じられる部分」に凝縮されているように思うのです。

 たとえば、主人公は物語冒頭、夢見がちなことを語ったところお父さんに勘当されてしまう少年です。彼に後に「実は竜の紋章が右腕に浮かび上がって……」とか「勇者の血筋を引きし者だった」というような展開は待っていません。

 世界は荒廃していて、敵もうじゃうじゃいますが、それらを殲滅する使命を与えられたわけでもないです。モンスターハンターになりたいから勝手に始めて、敵を倒して戦っていく、そしてあろうことかこのゲームのエンディング条件は「父親に引退すると申し入れること」なので、言ってしまえば開始してすぐに「引退する」と言えばエンディングを見ることができてしまうのです。(もちろんラスボスはいて、真エンディングもあります)

 この世界のモンスターのデザインも非常に秀逸です。

 ドラゴンと言われても「大きさ」や「質感」などはピンとこないと思うのですが、本作の敵キャラは「見たことないけど想像がつく」という絶妙なラインを保っています。

 例えば序盤で出てくる「うろつきポリタン」というキャラはポリタンクに足が生えたデザインです。こんなモンスター見たことないはずなのですが、質感やなんとなくの大きさ、そして「なんだか弱そう」というイメージを一瞬で感じ取れるデザインになっています。

最新作にも登場する「うろつきポリタン」

 こういったデザインにも「非日常を日常に落とし込む」工夫がなされているのですね。

 ちなみにシリーズでは後に仲間になる「バイオニックポチ」は本作では敵キャラとして登場します。後々、戦車にも乗るようになるポチの進化を初代から追っていくのも楽しいですね。

 そして今、話題にも上がった「戦車に乗る」ということ。これは確かに非現実的ですが、たとえばこの世界には「レンタルタンク」というものがあります。

 これにより戦車というものがあまりピンとこない多くのプレイヤーでも、この世界では戦車を借りて乗るくらい身近なものなんだということがイメージでき、「レンタルビデオ」のようにあとで返すものなんだなと分かるようになっています。

 回復アイテムは当たりつきの自販機で購入できたり、バーに入ればお酒を注文できたり、などなど。いろんな要素、このゲームならではの非日常なものをすべて「身近な日常」に落とし込むことでプレイヤーが違和感なく、そしていつまでもプレイヤーの思考に寄り添って作られているのです。

 僕らは勇者の血筋も引いていないし、世界にはドラゴンはいないけど、だからこそこの『メタルマックス』の世界では戦車に乗って世界を冒険して遊んでいる感覚、没入感に「リアル」を感じられるのかもしれませんね。

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