■マルチエンディングだけど“周回”はサクサク!?

 今ではよく耳にするようになったマルチエンディング。

 発売当時(1995年)、グッドエンドとバッドエンドがそれぞれに用意されているゲームはいくつもあったのだろうと思いますが、『クロノ・トリガー』のそれは群を抜いて印象的なものでした。

 まず特筆すべきは「つよくてニューゲーム」というシステム。

 クリア後のデータを引き継いで、周回プレイができるというもので、当時はかなり珍しいシステムでした。(「つよくてニューゲーム」という名称自体は本作が初出ですが、同様のシステムは本作以前に発売されたいくつかのゲームにも存在しています)

 ただ、ストーリークリアしたデータで裏ボスに挑むようなことはあっても、周回プレイまではしないというユーザーにとって、マルチエンディングはあまり魅力的ではありません。

 しかし、本作はそんなプレイヤーですら満足させてみせます。さすがドリームプロジェクト。

 先ほど述べたように、買ってもらった1本のソフトを長く大切に遊ぶユーザーが多かったであろう当時、やりこみ要素というのはとても重要でした。

 そして、多くの選択肢が用意されている本作において「取り返しのつかない選択」も数多くあり(魔王「今ここでやるか?」僕「はい」は良い思い出です)、もう一回違う選択肢でやりたい!と思うプレイヤーもいたとは思いますが、「やり直すほどではない」というのが正直なところでしょう。

 それを解決するのがこの「つよくてニューゲーム」なのです。

 敵の強さはそのままに、クリアデータのレベルなどを引き継いではじめからプレイできるため道中はもうサクサクです。初見では対策を知らないと苦戦するボスたち(このバランスも絶妙)の攻撃パターンも知っているので、お目当ての選択肢まで楽々たどりつけます。

 そして、もう一つ重要なのが、「つよくてニューゲーム」から始めた場合、ラスボスにいつでも挑めるのです。これがとても画期的でした。

 ラスボスを倒す時期が条件となっているエンディングもあるため、いろんなパーティを試しながら、いろんな時期にラスボスを倒し、また違ったエンディングを見る、という楽しみ方ができるように設定されているのです。

 これによって違う選択肢は気になるが「やり直すほどではない」と思うプレイヤー(僕)も、とりあえず特定の場所までストーリーを進め、1周目で見られなかったイベントを見た後でラスボスを倒すと、違うエンディングを見ることができ、「え、じゃああのタイミングで倒したらどうなんの!?」と気づいたら何周もしてしまう、という仕組みになっているのです。

 ちなみに多くの人が1周目をプレイした場合にたどり着くであろうエンディング「時の向こうへ」はとても感動的で(ロボとルッカのやり取りは分かっていても絶対泣く)あるのに対し、「つよくてニューゲーム」でどう考えてもおかしいスピードでクリアした者がたどり着けるエンディング「ドリームプロジェクト」では開発スタッフの方々とお話しできるという結構メタな演出を見ることができます。

 1周目では絶対に見ることができないように工夫されたエンディングで、やり込んだプレイヤーを喜ばせる演出を用意しておくその遊び心こそ、このゲームの神髄であるように思います。

 本作の1周目は20~30時間ほどでクリア可能なボリュームで、1周クリアに100時間前後かかるような最近の作品に比べれば少ないようにも感じますが、少ない容量のSFC用ソフトでいかにたくさんの遊びを見出すか、という工夫を随所にちりばめることでボリュームの少なさを感じさせないどころか「すげえ壮大だな!」と感じさせてくれるのです。

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