■鴨川も絶賛した宮田父の奇策

 最後は、一歩の永遠のライバルにして東洋太平洋フェザー級チャンピオン・宮田一郎を育てた彼の父親である。連載35年を超える本作において最序盤から登場している人物だが、実は本名が判明していない。そのため、本記事でも「宮田父」と呼ばせてもらう。

 宮田父がトレーナーとして注目されたのは、宮田VSランディー・ボーイJr.のタイトルマッチでのことだ。世界にも稀有な両利きを活かしたランディーの変幻自在の攻撃、通称“阿修羅”を前に、宮田は得意のカウンターをことごとく外されてしまう。

 もはや立っているのも精一杯という絶体絶命の状況で、宮田はストレートともアッパーとも言えない奇妙なパンチを連発するようになる。会場の誰もが“もうだめだ”と諦め、試合を観戦していた鴨川も、策を授けない宮田父に対し「何をしておるんじゃ」と怒りを隠せない。

 だが、それこそが宮田父の秘策だった。かつて選手としてランディーの父親と戦った経験を持つ宮田父は、「相手がとっさに出すパンチを1つに限定すれば、両利きでもカウンターは奪える」という策を思いついていた。練習では息子にあえて奇妙なパンチを反復させ、ランディーがとっさに左パンチを返してしまう状況を作り上げたのである。

 宮田父の策は見事にハマり、第844話で宮田はランディーの左に対して芸術的な右クロスカウンターを成功させる。この一撃には鴨川も「見事!」と絶賛し、一歩のライバル・沢村竜平も「天才だ」と静かに称えた。

 この試合は沢村にトレーナー転向を決心させるきっかけにもなっており、宮田父が後進にまで影響を与えた名トレーナーであることがうかがえる。

 

 『はじめの一歩』では、ボクサーとトレーナーの絆がよく語られる。トレーナーが練り上げた作戦を実行に移せるのは、いつだってトレーナーを信じてついてきたボクサー自身にほかならない。

 作中で見せてきた戦略の数々も、師弟が二人三脚で勝利を目指してきた強い信頼関係があるからこそ、見事に花開いたといえるだろう。

 

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はじめの一歩(1) (週刊少年マガジンコミックス)
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