漫画やアニメの世界では、「絶対に負けない」と思われていた主人公が、思わぬかたちで敗北や挫折を味わう瞬間が存在する。それは必ずしも力負けしたわけではなく、精神的に追い詰められたり、大切なものを守れなかったりと事情はさまざま。
だがそうした敗北の場面は、無敵だったはずの主人公に人間味を与え、物語に深みをもたらす。
そこで今回は、3人の“最強主人公”たちが見せた、印象的な敗北シーンを振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■不敗神話が崩壊!? 『ゴルゴ13』デューク東郷
さいとう・たかをさんの漫画『ゴルゴ13』の主人公・デューク東郷は、「超A級スナイパー」と称される伝説的な狙撃手だ。高額報酬と引き換えに依頼を請け負い、その任務を“ほぼ100%”成功させる存在として、世界中の権力者や犯罪組織から恐れられている。
しかし、そんなゴルゴにも数少ない“失敗”が存在する。その1つが、エピソード「バイオニック・ソルジャー」で描かれた敗北だ。
作中ではゴルゴ13を長年マークしてきたアメリカ国防総省が、彼の任務の大半を把握していることが語られる。その国防総省が確認していた狙撃失敗は、それまでたった1度だけ。しかもその原因は、ゴルゴ13自身のミスではなく不発弾という不運によるものだった。
そんなゴルゴ13に対し、アメリカが送り込んだのがライリーという兵士だ。彼は優秀な遺伝子をもとに最先端科学によって強化された超人兵士で、極限まで鍛え上げられた肉体と人間離れした反射神経を持っている。
そしてゴルゴ13と対峙したライリーは、彼による狙撃を驚異的な反射神経で察知し、なんと回避してしまう。絶対に標的を逃さないはずのゴルゴ13の弾丸を、“人間が避けた”のである。さらにライリーの反撃によってゴルゴ13を負傷させ、一時撤退にまで追い込んだ。
不敗を誇ったゴルゴ13が追い詰められるこの展開は、作品全体を通しても屈指の衝撃的なシーンといえるだろう。
■まさかの精神的敗北を喫した『YAWARA!』猪熊柔
浦沢直樹さんの漫画『YAWARA!』の主人公・猪熊柔は、天才的な柔道センスを持つ無敗の柔道家である。幼い頃から祖父・猪熊滋悟郎による英才教育を受け、その実力は世界レベルの選手たちを相手にしても圧倒的だ。ふだんは柔道をすることに消極的だが、いざ試合となればその才能を遺憾なく発揮し、数々の強敵を打ち破ってきた。
作中で無敗を貫いてきた柔だが、たった1度だけ敗北を喫した試合がある。それがライバルである本阿弥さやかとの対戦だった。
さやかは名門のお嬢様でありながら柔道に情熱を燃やし、柔に対して強烈な対抗心を抱いていた。ごく普通の女の子としての人生を望む柔とは、まさしく正反対のキャラクターとして描かれている。
柔とさやかが対戦する大会当日、彼女は大きく動揺することになる。さやかのコーチが、長年行方をくらませていた柔の父親・猪熊虎滋郎だと判明したからだ。柔にとって、父との思い出はほとんどなく、唯一覚えているのは幼い頃に自分が父をむじゃきに投げ飛ばしてしまった記憶のみ。
女の子として普通の幸せを誰より望む柔は、父親ともごく当たり前の親子の時間を過ごしたいと願っていた。
突然の父との再会に心を乱された柔は、試合会場へ向かう道中で立ち尽くしてしまい、試合開始時間に間に合わなくなってしまう。結果として畳に上がることすらできず、不戦敗を喫したのである。
この敗戦をきっかけに、柔は「柔道とどう向き合うのか」という根本的な問題とあらためて向き合っていく。無敗を貫いてきた天才柔道家・柔が喫した唯一の敗北と、その裏にあった葛藤は、『YAWARA!』屈指の名場面として今なお多くのファンの記憶に残っている。


