■命の尊さと理不尽への怒り「檸檬が泣いた日…の巻」

 『こち亀』のシリアス回を語るうえで、第123巻に収録された「檸檬が泣いた日…の巻」は外すことのできない物語だ。

 幼稚園でハムスターのお世話係になった、超神田寿司のスーパー幼稚園児・擬宝珠檸檬(ぎぼし・れもん)。彼女は、両さんや擬宝珠家の面々の助けを借りながら一生懸命ハムスターの世話をし、小さな命と触れ合っていく。

 しかし、序盤のほのぼのとした雰囲気から一転、物語は急変する。幼稚園に忍び込んだ不審者によって、ハムスターが惨殺されてしまうのだ。

 捜査の結果、犯人は未成年の学生グループであることが判明。しかし、親や学校が警察の協力要請に取り合わない理不尽な状況に業を煮やした両さんは、直接犯人たちのもとに向かう。ゲームセンターにいた彼らは罪の重さを理解することなく、ハムスター殺害をまるで遊びのように語っていた。

 両さんが現れても「証拠は?」と反省の色を見せない少年に、両さんはクビ覚悟で行動を起こす。自分の警察手帳を投げ捨て、「親も教師も見はなしたこいつらを だれが目を覚まさせるんだ!」と叫び、己の鉄拳を振り上げる両さんからは、ハムスターを殺した犯人や、彼らをそうさせてしまった周囲に対する強い怒りが感じられた。

 その後、両さんは少年たちを檸檬のもとへ連れて行き、直接謝罪させる。だが、不条理にハムスターを殺された檸檬の心の傷は深く、悲しみは晴れない。「あんたたちも踏み潰されればいいんだ!!」と大粒の涙をこぼし、そのまま事件は幕を閉じた。

 このエピソードは、最後に挿入される両さんの独白が印象的だ。「犯人を捕らえても解決しない わしにとってもいやな事件だった」。その言葉が象徴するように、読者の心に重くのしかかる後味の悪さが忘れられない異色のエピソードである。

 

 ふだんは型破りな行動で好き放題している両さんだが、彼の本質は正義感を持った立派な警察官である。理不尽な出来事には怒りを示し、非道な犯人を捕まえるためなら体を張って立ち向かうことも厭わない。

 今回紹介した事件は、そんな両さんのいつもとは違う顔が垣間見えた貴重なエピソードなのである。

 

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