不朽の名作として知られる、高校野球漫画『タッチ』(あだち充氏)。その作品タイトルは、作中で描かれる「主人公・上杉達也と双子の弟・上杉和也の“バトンタッチ”」を指しているという話は有名である。
明青学園野球部のエースとして甲子園を目指していた和也は、不幸な事故で命を落とし、その彼の意志を兄の達也が受け継いだ。そして兄弟の願いは、最終話で甲子園優勝という最高の結果を見せてくれた。
だが、ここで一つ気になることがある。同時期にマウンドに立つことのなかった達也と和也、はたしてどちらのほうが投手として優れていたのだろうか。実績だけ見ると甲子園優勝を果たした達也に軍配が上がるが、和也もまた将来を有望視された逸材だった。
そこで今回は、達也と和也がどのような投手だったのかを振り返りながら、「ピッチャーとしてどちらが優れているのか」さまざまな側面から考察してみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■達也:速球は152km/h! 入部から2年で甲子園を制覇した天才
まずは、主人公である達也の能力から振り返っていこう。
達也のセールスポイントといえば、やはり超高校級の剛速球だろう。相棒の松平孝太郎しか捕れないスピードと球威は凄まじく、テレビスペシャル『タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は…』(日本テレビ系)では、甲子園で152km/hを記録したシーンが描かれている。
『タッチ』が昭和の漫画作品であることを踏まえると、152km/hは規格外の球速といっていい。
明青学園野球部に入部してしばらくはスタミナ不足に悩まされたが、3年最後の夏を迎える頃には克服。荒れ気味と評されたコントロールも、全力投球でなければ十分なレベルに仕上がっていた。
作中ではノーヒットノーランを達成する場面もあり、最終話ではケガさえなければプロ野球に進んでいた可能性も示唆されていた。まさに超高校級のピッチャーだ。
このように荒削りながらも非常に能力が高い「ピッチャー・上杉達也」だが、彼の真の凄さは野球歴の短さにもある。
達也が明青学園野球部に入部したのは1年生の夏の大会後のことで、3年の夏まで実質2年もなかった。幼い頃から浅倉南の願いをかなえるために努力を重ねてきた和也と比べれば、達也はあまりにも短期間のうちに甲子園優勝まで成し遂げている。そこに絶え間ない努力があったのは間違いないが、それ以上にとてつもない天才的な野球センスを秘めていたとしか思えないのだ。
■和也:優勝候補相手に18奪三振…すべてにおいて完成度が高かった
一方、和也もピッチャーとして卓越した成績を残した実力者である。本人は達也の才能を誰よりも認めていたが、和也の才能もまた、他を寄せ付けないほどだった。
和也の投手としての特徴をひと言で表すなら、「完成度の高さ」に尽きる。ストレートの球速こそ達也に譲るが、鋭いキレのある球と精密なコントロールは高校生レベルを凌駕していた。中学生の時点で同じところに寸分違わぬストレートを投げ込む離れ業を見せており、のちに達也のライバルとなる天才バッター・新田明男との対戦では、3打席3三振で圧勝している。
和也の才能が存分に発揮されたのが、1年時の夏の地方大会準決勝である。優勝候補の西条高校を相手に9回18奪三振1失点の力投で球場を騒然とさせた。この1失点も小技と不運が重なったもので、まともなヒットは1本も許していない。
もっとも恐ろしいのは、この時点で和也がまだ1年生だったということだろう。対戦した西条高校のエース・寺島も、「おまえなら甲子園での全国制覇も夢ではない」と、その実力に太鼓判を押していた。
だが、和也の公式戦でのピッチングはこの準決勝が最後になってしまった。もし彼が事故に遭うことなく3年間努力を続けていれば、一体どれほど凄い投手に成長していたのだろうか……。


