「ジャンプ黄金期」真っ只中に生まれた「前衛的すぎたギャグ漫画」を振り返る『ボンボン坂高校演劇部』に『王様はロバ』『すごいよ!!マサルさん』も…の画像
『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』(バンダイビジュアル)(C)うすた京介・スタジオジレッタ/集英社・TBS

 1990年代半ば、『週刊少年ジャンプ』(集英社)は史上最高発行部数である653万部を記録し、まさに「黄金期」の絶頂にあった。誌面では『ドラゴンボール』(鳥山明さん)や『SLAM DUNK』(井上雄彦さん)といった歴史的名作が読者を熱狂させる一方、そういった王道作品とは一線を画す方向で突き抜けたギャグ漫画もまた、独自の牙城を築いていたのである。

 今回は、そんな『ジャンプ』という激戦区でひときわ異彩を放った3つの名作をピックアップ。その尖った笑いと、時代を揺さぶった唯一無二の凄さを振り返っていく。

 

※本記事には各作品の内容を含みます。

 

■時代を先取りしすぎたカオスな人間関係『ボンボン坂高校演劇部』

 まず紹介したいのが、高橋ゆたかさんによる『ボンボン坂高校演劇部』である。1992年から1995年にかけて連載された本作は、一見すると、美麗な絵柄で描かれた王道の学園ラブコメディのように見える。

 しかしその実態は、個性の強すぎる登場人物たちが暴走するハイテンションな演劇部ギャグ漫画だった。その象徴ともいえるのが、演劇部部長・徳大寺ヒロミである。

 2頭身にハート形の唇、そして「マユゲ男」の異名を持つ、一度見たら忘れられない強烈なビジュアル。詳細なストーリーは忘れたとしても、このキャラクターの姿だけは今でも鮮明に覚えているという読者も少なくないだろう。

 本作の真骨頂は、その複雑な恋愛構図にある。男好きのヒロミが主人公・順菜正太郎に好意を寄せ、男嫌いのヒロイン・日比野真琴は「2人は愛し合っている」と本気で誤解してしまうのだ。

 そこに美少女、変人、ナルシスト、暴走型の部員たちまで加わり、演劇部という“何でもあり”の舞台装置の中で、多種多様なキャラクターたちが予測不能な笑いを生み出していくのである。

 今日では「ジェンダー」や「多様性」を巡るテーマが広く語られるようになったが、本作を読み返すと、既存の恋愛観やキャラクター像といった枠組みを軽々と飛び越える人間関係の面白さを、90年代の少年誌らしい勢いと自由さで描いていたことに驚かされる。まさに時代を先取りしていた作品といえるだろう。

 その一方で、本作は暴走ギャグ一辺倒では終わらない。ハイテンションな騒動の合間には、正太郎と真琴の恋愛が少しずつ進展し、思わずキュンとするようなエピソードも挟み込まれる。読者は強烈なギャグに笑わされながらも、いつの間にか彼らの青春の行方を応援してしまうのだ。

 濃すぎるギャグ、型破りなキャラクター群、そして意外なほど真っ直ぐな青春ラブコメ要素。その混沌とした同居こそが、『ボンボン坂高校演劇部』の唯一無二の魅力だったのである。

■悪ふざけと哀愁を詰め込んだ“7ページの実験作”『王様はロバ~はったり帝国の逆襲~』

 次に紹介するのが、1994年から1996年に連載された、なにわ小吉さんの『王様はロバ〜はったり帝国の逆襲〜』だ。淡白で飾り気のない絵柄とは裏腹に、緻密に計算されたギャグを畳みかける本作は、当時の『ジャンプ』誌面そのものを実験場にしていたかのような、極めて前衛的な作品である。

 本作は毎号わずか7ページ掲載という限られた紙幅ながら、異様な密度のギャグを叩き込んでいた。連載初期は1ページ完結のオムニバス形式が中心で、毎回異なる設定や発想が怒涛の勢いで繰り出される。

 たとえば、あらゆる生物が巨大化して暴れ回る「◯◯ラ」シリーズや、「集団桃太郎」「集団水戸黄門」など、特定作品の登場人物だけが異常増殖する「集団◯◯」シリーズ。さらにはタイトルからして不穏な「日本ちょっと沈没」シリーズなど、毎回の発想がことごとく読者の予想の斜め上を突き進んでいた。

 そして途中からは、その号の7ページを丸ごと使ったショートストーリー形式へと変化する。

 傍若無人な友人・中井出に振り回され続ける「中井出」シリーズや、日本全国を舞台に鬼ごっこが行われる世界で、鬼になってしまった娘とその家族を描く「鬼ごっこ」シリーズなど、人物描写やシチュエーションをより深く掘り下げるギャグが展開されるようになった。

 バカバカしさ全開の内容でありながら、そこにはどこか人生のやるせなさや敗北感が漂い、不思議な哀愁も含まれている。

 淡白で飾り気のない絵柄の中に、悪ふざけ、計算されたギャグ、そして奇妙な哀愁まで詰め込んだ『王様はロバ』は、黄金期の『ジャンプ』誌面において、明らかに異質な輝きを放っていた。

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