■“くだらない魔法”が生んだ運命の出会い「花畑を出す魔法」

 最後に紹介するのは、本作の象徴とも言える「花畑を出す魔法」である。殺傷能力も防御性能もなく、魔族との戦いにおいて直接役立つ場面はないといってもいいだろう。まさに“くだらない魔法”の代表格であるが、この魔法こそがフリーレンの長い人生を決定づけたといっても過言ではない。

 コミックス第6巻・第57話(アニメ第27話)では、幼い頃のヒンメルとフリーレンの出会いが描かれている。

 森で迷ったヒンメルは、当初無愛想なフリーレンにどこか冷たい印象を抱いていた。しかし彼女が「花畑を出す魔法」を唱えた瞬間、その認識は一変する。周囲一帯が色鮮やかな花々で埋め尽くされる光景を目の当たりにしたヒンメルは、のちに「あれが生まれて初めて魔法を綺麗だと思った瞬間だった」と振り返っている。これこそが、魔王を打ち倒すことになる、2人の運命的な出会いであった。

 また、コミックス第1巻・第3話(アニメ第2話)では、勇者一行を称える英雄像を飾る場面でも、この魔法が使用された。フリーレンは、ヒンメルの故郷に咲いていたという「蒼月草」を探し出し、魔法で英雄像の周りに「蒼月草」の花畑を咲かせる。これにより、人々の記憶の中で薄れかけていた勇者の姿を鮮やかによみがえらせたのであった。

 さらにこの魔法は、「魔法界の祖」と呼ばれる大魔法使いフランメがもっとも愛した魔法でもあった。効率と合理性を何より重視する師匠ゼーリエですら、この“くだらない魔法”を使い、亡き愛弟子フランメの面影を思い出す場面が描かれている。

 戦いでは役に立たない。それでも、人の記憶をつなぎ、誰かの心を救い、そしてフリーレン自身の心を少しずつ「人間」へ近づけていく。「花畑を出す魔法」は、『葬送のフリーレン』という作品そのものを象徴するような、優しくて温かな魔法なのである。

 

 フリーレンが集める魔法は、一見すると実用性に乏しい“くだらない魔法”ばかりに見えるかもしれない。しかし、それが時には戦闘や試験突破の切り札となり、さらには人の記憶や感情をつなぎ止める大切な役割まで果たしてきた。

 派手な攻撃魔法ではなく、人々の日常の中から生まれた小さな魔法だからこそ、人の心に寄り添い、深く結びついているのだろう。

 人と人との絆や旅の記憶、そして「心」を丁寧に描く『葬送のフリーレン』らしさは、こうした“くだらない魔法”の数々にこそ詰まっているのかもしれない。

 

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葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
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