「服が透けて見える魔法」に「かき氷を出す魔法」、果ては「赤リンゴを青リンゴに変える魔法」など……。『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人氏、作画:アベツカサ氏)の主人公・フリーレンの趣味は、さまざまな魔法を収集することである。なかでも、戦闘には直接役立ちそうもない“くだらない魔法”に強く惹かれている。
強さや効率を重視する他の魔法使いからすれば、まさに“魔力の無駄遣い”にしか見えないだろう。しかし作中では、そんな地味な魔法が絶体絶命の状況を打開したり、人の記憶や想いをつなぎ止めたりと、思わぬかたちで大活躍してきた。
今回は、その中でも特に印象深い魔法の数々を振り返っていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■亡き勇者の想いをつないだ「失くした装飾品を探す魔法」
「失くした装飾品を探す魔法」は、その名の通り紛失した装飾品の場所を突き止めるためのもので、装飾品作りが盛んな村の切実な願いから生まれた魔法とされている。
コミックス第4巻・第30話(アニメ第14話)にてフリーレン一行は北側諸国バンデ森林で、馬車に乗せてもらう代わりに村までの護衛を引き受ける。しかしその道中、突如として鳥型の魔物に襲撃され、混乱のさなかにフリーレンは勇者ヒンメルから贈られた大切な「鏡蓮華の指輪」を深い森の中へ落としてしまうのである。
鏡蓮華の花言葉は「久遠の愛情」。かつてヒンメルがひざまずき、まるでプロポーズのようにフリーレンに渡したその指輪の意味を、当時の彼女はまだ理解していなかった。しかし、ヒンメル亡き後の長い旅路において、それは2人をつなぐ唯一無二の大切な形見となっていたのである。
視界を遮る巨木がどこまでも続く大森林において、小さな指輪を探し出すのは至難の業だ。いかに強力な攻撃魔法を操るフリーレンであっても、この状況ばかりはどうにもならなかった。
そんな絶望的な状況を救ったのが、護衛のお礼として渡される予定だった「失くした装飾品を探す魔法」である。フリーレンが上空から魔法を使うと、暗い森の底から一直線に光の柱が立ち上がり、指輪の場所を正確に指し示した。
護衛のお礼として受け取るはずだった些細な民間魔法が、長い時を生きるエルフと亡き勇者をつなぐ、大切な想いを守り抜いたのである。
■一級魔法使い試験の切り札「鳥を捕まえる魔法」
次に紹介する「鳥を捕まえる魔法」も、一見地味な魔法である。これは狩猟を生業とする一族が編み出した、鳥を捕獲するという目的のためだけの極めて限定的な魔法だ。しかし、コミックス第4巻・第37話(アニメ第18話)から始まる「一級魔法使い試験」の第一次試験では、この民間魔法が攻略の切り札となった。
試験内容は、指定区域内に生息する「隕鉄鳥(シュティレ)」を、翌日の日没までにパーティー全員がそろった状態で捕獲するというもの。しかし、隕鉄鳥は竜のように頑丈な体を持ち、音速で飛行するうえ、魔力に対して極めて敏感な性質を持つ。並の魔法使いでは魔力を感知した瞬間に逃げられてしまう難敵であった。
フリーレン、カンネ、ラヴィーネの3人は、この“魔力に対して臆病”という習性を逆手に取った作戦を展開する。結界内に存在する主要な水場のほとんどに魔力を込め、隕鉄鳥が近づける場所を1か所だけに限定したのである。あえて危険な場所を増やすことで、獲物を狙った地点へと誘導する巧妙な戦術だった。
そして決め手となったのが、フリーレンが趣味で収集していた民間魔法「鳥を捕まえる魔法」である。彼女は魔力を完全に消して待ち伏せし、狙い通り唯一残された安全な水場に誘導されてきた隕鉄鳥が肩に止まった瞬間、この魔法を用いて見事捕獲に成功した。
その後、デンケンたちとの激しい戦闘にも発展したが、それすら乗り越え、フリーレンたちは第一次試験を突破する。このように“鳥を捕まえるだけ”の地味な魔法が、エリート魔法使いたちが挑む試験を攻略する最大の切り札となったのである。


