『りぼん』(集英社)の黄金期に燦然と輝く、岡田あーみん氏による伝説的なギャグ漫画『ルナティック雑技団』。「少女漫画界に咲くドクダミの花」と称された岡田氏が描いた本作は、過去作の『お父さんは心配症』や『こいつら100%伝説』に比べて、ときめき要素が強いラブコメ作品となっている。
しかし、読者が腹を抱えて笑った物語の結末には、一般的なギャグ漫画とは一線を画す、ちょっと切ないラストが待ち受けていた。今回はそんな本作の衝撃の最終回、そして番外編で描かれた意外な展開について振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■唯一無二のギャグと色濃い恋愛要素…誰もが信じた「ハッピーエンドへの道」
『ルナティック雑技団』は、『りぼん』の1993年1月号から1994年3月号まで連載され、その後『りぼんオリジナル』(集英社)にて1995年4月号まで連載が続いた作品である。
物語は、平凡な女子中学生・星野夢実が、両親の海外出張を機に同級生で“孤高の貴公子”と呼ばれる天湖森夜の家に下宿することから始まる。
しかし、森夜を異常なまでに溺愛する母・天湖ゆり子からの妨害にあったり、夢実に好意を寄せエキセントリックな行動を繰り返す学園のアイドル・愛咲ルイが現れたりと、個性的なキャラクターが次々と登場し、夢実は彼らに翻弄される日々を送る——といったストーリーだ。
本作でも、「あーみん作品」らしい奇想天外なハチャメチャギャグは健在。しかし、『お父さんは心配症』で見られたような流血や凶器が頻繁に登場する過激なギャグは少なく、その一方で森夜と夢実のハプニングキスが描かれるなど、恋愛要素は過去作よりも多く盛り込まれている。
物語終盤、夢実は海外に住む母親から一緒に暮らすよう誘われる。その矢先、夢実の恋のライバル・成金薫子と森夜が寄り添う姿を目撃してしまい、失意の夢実はルイに相談する。
ルイはそこで自分が失恋したことを知るのだが、自身の恋心を押し殺し、彼女に森夜の家に帰るよう促すのである。
こうしたルイの後押しもあり、夢実は親元には帰らず、森夜の家に居続けることを選んだ。森夜もまた夢実との同居を望んでおり、このまま2人は結ばれてハッピーエンドを迎えるかのように思われた……。
■衝撃的なラスト…恋よりも自立を選んだヒロイン
最終回「さよなら天湖家」では、夢実が再び森夜の家に戻り、関係をやり直すところから始まる。森夜の母・ゆり子に振り回されつつも「また…ここにいられるんだあ よかったあ」と、安堵する夢実。
しかしその後、自分に思いを寄せつつも身を引いてくれたルイの優しさを知り、夢実は大きな衝撃を受ける。さらに、森夜のファンから抗議されても毅然と反論する恋のライバル・薫子の姿を目の当たりにし、彼女は自分がいかに未熟であるかを痛感するのだ。
そして熟考の末、夢実は森夜に依存するのではなく自立することを選ぶ。最終的に彼女は天湖家を去り、森夜との別れを決意して海外の両親の元へと向かうのである。
物語の最終ページでは、空港にて向き合う夢実と森夜が描かれ「手紙を書くね」というセリフとともに2人の思い出が走馬灯のように流れる。そして「さようなら」のひと言を残し、夢実は力強く旅立っていくのであった。
爆笑ギャグ漫画の結末として描かれたのは、愛する人と別離して自立を選ぶという、あまりにも切ないラストであった。「最後は森夜と結ばれるはず!」と油断していた当時の読者の多くは、このリアルでほろ苦い結末に「ウソでしょ!?」と呆然としただろう。
ちなみに岡田氏が手がけた過去2作品のラストは、いずれもハッピーエンドだ。『お父さんは心配症』では主人公・佐々木光太郎とお見合い相手の安井千恵子が結ばれ、『こいつら100%伝説』では主役キャラの1人である極丸と白鳥姫子が結ばれている。
しかし、本作ではヒロインとヒーローは明確に結ばれることなく、切ない余韻を残す幕切れとなったのである。


