【実写化作品「人気俳優の不気味キャラ」5】北村匠海が実写化作品で魅せた「闇落ち公務員」、好青年イメージを覆す「生々しき狂気」に驚嘆の画像
DVD『悪い夏』通常版  (C)2025 映画「悪い夏」製作委員会

 漫画やアニメ、小説の世界には、薄気味悪い空気をまとったキャラクターがたびたび登場する。見た目はごく普通でありながら異常性を秘めていたり、感情の一部が欠落していたりと、その内面には背筋が凍るような危うさが潜んでいる。だが同時に、その底知れなさやミステリアスな魅力こそが、読者の目を強く引きつけてやまない。

 実写化作品においては、俳優たちがそうした見えない恐ろしさをいかに体現できるかが重要になる。原作の不気味さや違和感にリアリティを与えられるか否かは、作品の完成度を大きく左右する要素だ。

 今回は、そんな難役に挑み、普段のイメージを覆す異様な演技で強烈な印象を残した俳優たちを、5回にわたって振り返っていく。

(第5回/全5回)

※本記事には作品の内容を含みます

■怒涛の闇落ちっぷりにゾクゾク『悪い夏』北村匠海さん

 2017年、第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人さんによる小説『悪い夏』。どこまでいっても“悪い奴”しか出てこない本作で描かれるのは、単なる善悪では割り切れない重い現実と、生活保護という制度の裏側に潜む歪みだ。

 物語の主人公は、生活保護受給者のケースワーカーとして働く真面目な青年・佐々木守。彼の周囲には、さまざまな問題を抱えながら社会の底辺で生きる人間ばかりが現れる。育児放棄しかける母親、その弱みに付け込む者、裏社会に生きる者、そして制度を悪用する者。佐々木は、彼らとの関わりを通じて、次第に深い闇へと引きずり込まれていく。

 胸が苦しくなるほどの重苦しさをまとったこのノワール・サスペンスは、2025年に実写映画化された。監督は『ビリーバーズ』『嗤う蟲』といった癖の強い作品で定評のある城定秀夫さん、脚本は日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞経験を持つ向井康介さんである。

 その強力タッグのもと、主人公・佐々木を演じて強烈なインパクトを残したのが、俳優とロックバンド「DISH//」のギターボーカルという2つの顔を持つ北村匠海さんである。

 本作における北村さんの闇落ちっぷりは、見事の一言だった。ビジュアルポスターでは目の下にクマを浮かべ、絶望に沈んだような眼差しを見せており、その姿からだけでも彼の内面に広がる深い闇が伝わってくる。

 作中では、恋に落ちた受給者のシングルマザー・林野愛美(河合優実さん)の裏切りを知った瞬間の絶望の表情は言わずもがな、それをきっかけに憎しみと激情に飲み込まれていく様が、観る者を釘付けにする。その表情や言動の変化を目の当たりにするほどに、真面目だった佐々木がどのような心境で転落していったのかを考えずにはいられなくなるのだ。

 ちなみに原作では、佐々木は悪の根源である金本龍也に嵌められて薬漬けとなり、錯乱の末に愛美の友人・莉華を刺すというダークな展開が描かれている。映画版ではその部分がマイルドに改変されていたが、それがかえって、佐々木と愛美がお互いに向ける複雑な感情をより際立たせていた。

 北村さんは役柄に対する解像度が高く、繊細な表現能力に長けた俳優として知られている。NHK連続テレビ小説『あんぱん』では、劣等感を抱えながらも懸命にもがく柳井嵩を人間臭く生々しく演じ、『東京リベンジャーズ』では弱さと強さを併せ持つ主人公・タケミチを自然体で体現してみせた。

 そういった彼の演技を支えているのが、わずかな目の動きや口元の変化、さりげない仕草にまで行き届いた、きめ細かな表現である。だからこそ、北村さんが演じる人物には常にリアリティが宿るのだろう。

 これまでの積み重ねの上で見せた本作での“闇落ち公務員”という異質な役柄は、彼に対して抱かれがちだった「普通の男の子役がうまい」「優しくて人間らしい役が合う」といったイメージを覆す、鮮烈な変貌ぶりだったと言える。

 

 優しいケースワーカーが闇落ちし豹変していく様を、丁寧に演じきった北村さん。コミカルな役から本作のようなシリアスな役まで演じ分けるその演技力の高さこそが、彼の大きな魅力だ。これからもその豊かな感性を生かし、どのような表情を見せてくれるのか、楽しみでならない。

 

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