■危険な魅力に隠されたニヒルと冷ややかな狂気

 『スペースコブラ』(1982年放送)は、寺沢武一さんの漫画『コブラ』を原作としたアニメ。そのテレビ版とOVAシリーズで主人公・コブラを担当した野沢さんは、前述した二枚目キャラのイメージから一転、ウィスパー混じりの不敵な声で「大人の男」を演じます。(ちなみに劇場版のみ、松崎しげるさんがコブラの声を担当)

 コブラには美女がつきもので、彼女たちに対してはウィットに富んだジョークで心をほぐし、いざ敵と対峙すると心臓が凍るほど物騒な軽口を叩きます。まさに立て板に水の如く、スラスラと淀みないセリフ回しにシビレました。

 そして「やれやれ」と肩をすくめるような軽いノリの直後、サイコガンで獲物を倒した時の息遣いや声は冷徹な戦士そのもの。それまでの愛嬌ある三枚目(元はハンサムですが)のコブラが突如豹変し、ゾクッとするような殺気と色気をはらんだ声の演技に引き込まれます。

 たとえば第5話「謎!強敵スナイパーは?」の回では、“ロイヤル三姉妹”のキャサリンを難攻不落の刑務所から救出。その逃走中は、キャサリンを安心させようとコミカルに振る舞いますが、彼女が撃たれると不安にさせないよう平静を装いながらも幾分早口に。

 そして彼女を撃ったスナイパーの正体が、三姉妹の姉ジェーンと判明した瞬間、驚愕から怒りへと転じるのです。こうした野沢さんらしい繊細な演技が、物語をよりドラマチックに演出してくれました。

 テレビアニメ『HELLSING(ヘルシング)』(2001年放送)のアンデルセン神父役では、持ち前の優雅な美声をあえて封印し、狂気に満ちた演技を披露したのが印象的です。

 第3話「Sword Dancer」では、信仰ゆえの「狂気」と「殺意」をむき出しにする演技がまさに圧巻。喉を鳴らして表現した凄み、巻き舌のように聞こえながらも滑舌が抜群によく、張りのある声で不遜な絶対的強者感を醸し出します。そして笑みを含んだ話し方で相手を見下す様も素晴らしく、野沢版アンデルセン神父の真骨頂のような演技が見られました。

 OVA『銀河英雄伝説 外伝 千億の星、千億の光』でのヘルマン・フォン・リューネブルク役は、亡命貴族らしいプライドと冷徹な闘争心を、起伏の少ない冷ややかな声で演技。そのため、しばらく聞いていないと野沢さんの声と気づかないほどでした。

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