田中芳樹『銀河英雄伝説』で描かれた「秀逸なSF設定」 タンクベッド睡眠に流体金属…現代に欲しい夢のテクノロジーもの画像
DVD「アニメ製作20周年記念 銀河英雄伝説 LEGEND BOX」(ハピネット・ピクチャーズ)

 田中芳樹氏の人気小説『銀河英雄伝説』は、ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーという2人の英雄を中心に、銀河帝国と自由惑星同盟による争乱を描いた壮大なスペースオペラである。

 作品の舞台となっているのは、今から1000年以上先の未来。人類はワープ航法を実現したことでその多くが地球を離れ、銀河系へと進出している。作中の地球は「人類発祥の地」として知られてはいるものの、もはや寂れた辺境の惑星の1つに過ぎず、地球教と呼ばれる宗教の総本山となっていた。

 そんな遠い未来が舞台のSF作品ではあるが、書かれたのが昭和ということもあって、現代の日本に普及しているようなデジタル機器は登場せず、空想の技術が中心になっている。また、本作の科学技術は相当発展しているにもかかわらず、中世ヨーロッパのような社交シーンがあったり、娯楽といえばいまだにチェス(作中では「3次元チェス」)だったりと、独特の世界観で描かれていた。

 そんな時代錯誤な部分もある『銀河英雄伝説』の世界ではあるが、SF小説らしい空想の技術が詰まった魅力的な設定も登場。今回は本作ならではのSF設定にワクワクさせられた部分をあらためて振り返ってみたい。

※本記事には作品の内容を含みます。

■人工天体型「超巨大要塞のワープ」

 SF作品につきもののメジャーな架空の技術といえば、「ワープ航法」が挙げられる。広大な銀河系を舞台にする壮大な作品だけに、他の恒星系に移動するには、宇宙船のワープは必要不可欠な技術である。

 そして作中では宇宙船ではなく、なんと巨大な人工天体型の要塞をまるごとワープさせるという豪快な作戦が描かれた。

 これは銀河帝国軍がイゼルローン回廊にある難攻不落のイゼルローン要塞を攻略するために用いられた作戦の1つ。既に帝国領内にあったガイエスブルク要塞にワープエンジンをとりつけて、敵要塞の目の前にワープさせるというものだ。

 イゼルローン要塞は、銀河帝国と自由惑星同盟の間に存在する狭い回廊内に築かれた人工天体型の巨大要塞で、艦砲射撃程度では傷1つつかないほどの強固な装甲を誇り、難攻不落の要塞として知られていた。

 その要塞攻略のために、同程度のスペックを誇る要塞をもって対抗するという「要塞対要塞」による攻略作戦である。

 直径45キロにも及ぶ超巨大な要塞をワープさせるというのは、『銀河英雄伝説』の世界でも前代未聞の出来事だったらしく、移動要塞化させたり、ワープ装置を装着したりと、最新鋭の技術が用いられていた。

 ガイエスブルク要塞が突如襲来した当時は、イゼルローン要塞にヤン・ウェンリーが不在だったこともあって、要塞を守る自由惑星同盟側はかなり混乱していたのが印象的である。

■イゼルローン要塞を覆う「流体金属層」

 そのイゼルローン要塞であるが、OVA版では独自の設定が付け加えられており、SF要素として魅力的だったのが、要塞表面を覆っている「流体金属」の層だ。

 作中の流体金属は、その名の通り液体状の金属で、衝撃を吸収する効果がある。イゼルローン要塞は直径60キロに及ぶ球形の巨大要塞で、その表面を流体金属の層が包み込んだ様子は、さながら宇宙に浮かぶ天体のような趣がある。そして要塞表面を包む流体金属が波打つ描写は、まるで海のようにも見えた。

 さらにその流体金属内には浮遊砲台と呼ばれる砲台が設置されており、流体金属の海を砲台が移動し、あらゆる方向への攻撃が可能となっている。

 このイゼルローン要塞の流体金属層というOVA独自の設定は、アニメ映像的にも非常に映える設定であり、イゼルローン要塞の難攻不落感を演出する意味でも秀逸に感じられた。

  1. 1
  2. 2
  3. 3