少女漫画の王道といえば、胸キュンな恋愛模様やキラキラした学園生活を描いた物語をイメージする人が多いだろう。そうした王道作品のなかには、恋愛要素を織り交ぜつつ読者に笑いを届けるコメディ作品も数多く存在する。
だが、そんな明るい作風でありながら、読者を驚かせるような重いテーマを盛り込んだ作品も少なくない。安心して楽しく読み進めていたところに突然のシリアス展開や壮絶なバトルシーンが差し込まれ、「この後どうなるのだろう」と、息を呑んだ経験を持つ読者もいるだろう。
今回は、コミカルテイストで始まりつつも、物語の途中でシリアスな展開を見せた名作少女漫画を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■小学生読者に突きつけた“学級崩壊”と“家庭の闇”のリアル『こどものおもちゃ』
小花美穂氏による『こどものおもちゃ』は、1994年から1998年にかけて『りぼん』(集英社)で連載された大ヒット作だ。
物語の主人公は、人気子役タレントとして活躍する元気いっぱいの小学6年生・倉田紗南。彼女は、頭にリスを飼うエキセントリックな母親・実紗子や、マネージャー兼“ヒモ”の相模玲と共に暮らしている。そんな紗南が、クラスを牛耳る問題児・羽山秋人とぶつかりながらも次第に心を通わせていく学園コメディである。
序盤は、紗南の天真爛漫なキャラクターと周囲を巻き込むハチャメチャなギャグが織り込まれており、楽しく読み進めることができる。
しかし、物語の核として描かれるのは、担任を脅しての“学級崩壊”や、実母が出産時に亡くなったことで姉に「悪魔」と呼ばれ虐待を受ける秋人の“重すぎる家庭環境”だ。秋人がわずか12歳にして紗南にナイフを渡し、「殺してくれよ」と迫るシーンは、本作が持つテーマの重みを物語っているだろう。
さらに物語が中学生編に進むと、同級生による刃傷事件や、紗南自身が感情を失い表情が作れなくなる精神的な病「人形病」までもが描かれる。こうしたヘビーな展開に、当時は“怖い”と感じつつも、子どもの視点からリアルな闇に立ち向かう彼らの姿に釘付けになったものだ。
大人になった今読み返すと、そのテーマの深さと、ギャグで巧みに中和させながらもシリアスな問題を真正面から描き切った作者の手腕に圧倒されてしまう。それまでキラキラした作品が多かった『りぼん』の中では、少女漫画の枠を超えた異色の名作だと言えるだろう。
■ほのぼのラブコメが徐々に魔界を巡る本格バトルに発展『ときめきトゥナイト』
池野恋氏による『ときめきトゥナイト』は、1982年から1994年にかけて『りぼん』で連載され、累計発行部数3000万部を超えるラブコメの金字塔だ。物語は全3部構成でヒロインが代替わりしていくが、中でも本作の人気を確固たるものにしたのが、第1部の主人公・江藤蘭世が活躍する「蘭世編」である。
蘭世は吸血鬼の父と狼女の母を持つ魔界人の少女だ。彼女は人間の少年・真壁俊に恋をしており、物語初期は蘭世が自分の正体を隠しながら俊を追いかけるラブコメディとして展開された。
蘭世は噛みついた相手に変身できるという特殊能力を持っている。その能力を使って俊に健気にアプローチを試みたり、恋のライバルである神谷曜子を犬に変えてしまったりと、物語序盤はドタバタギャグが中心だった。
しかし、中盤以降、物語の雰囲気は一変する。人間だと思われていた俊の正体が、実は魔界の王子であり、かつて“魔界を滅ぼす存在”として命を狙われていた過去が明らかになるのだ。
さらに物語が進むと、前世の記憶が絡む世界観が展開され、世界を支配しようとする冥王ノーゼとの命懸けの戦いが描かれる。魔法や剣を使った本格的なバトルや、俊が魔力を失う悲劇など、物語は先が読めない重厚なファンタジーへと変わっていった。はじめはラブコメ作品として楽しんでいた読者も、この壮大なスケールへの変貌にはハラハラさせられただろう。
コミカルなラブコメからファンタジーへと姿を変えた本作だが、クールな俊のカッコ良さがシリアスな展開と見事にマッチし、より魅力的な作品となった。世界を救うための戦いと並行して描かれる蘭世と俊の恋物語に、当時の読者は夢中になったものである。


