■呼吸の強さは羌瘣以上!?「蚩尤」となった「幽連」

 続いては、羌瘣の因縁の相手である幽族の長・幽連(ゆうれん)だ。

 羌族の伝説の刺客「蚩尤」は、各部族の候補者たちが「祭」と呼ばれる儀式を経て、ただ一人の生存者がその名を継承する。羌瘣は幼い頃から姉のように慕っていた羌象と共に、その「祭」への参加が決まっていた。羌瘣は自分よりも羌象が生き残ればいいと考えていたが、同様に羌象も羌瘣を想い、睡眠効果の高い香を焚いて彼女を眠らせる。

 目覚めた羌瘣が駆けつけた時、すでに「祭」は終わっていた。突出した実力を持っていた羌象は幽連の策略により、ほかの参加者全員から真っ先に命を狙われて絶命していた。

 卑怯な手を用いた幽連に復讐を遂げるため、一時的に飛信隊を離れた羌瘣は、趙国の山奥に住んでいる幽連の元へ赴く。

 巫舞を使う幽族の仲間たちを相手に圧倒的な力を見せつけた羌瘣は、ついに幽連と対峙する。だが、彼女の強さは、これまでの敵とは一線を画すものであった。

 最深の呼吸で放たれる羌瘣の巫舞に対し、幽連は軽く迎撃。羌瘣の驚異的な速さにも対応する幽連の実力は、羌瘣を完全に上回っていた。

 幽連によれば、巫舞とは精神を深く沈めることで人間の秘められた力を引き出すものだという。通常はその集中を高めるために特殊な呼吸法を用いて舞をするのだが、蚩尤となった幽連はその助走なしに、瞬時に巫舞と同じ領域にまで意識を落とし込むことができる。

 彼女のこの強さは、「祭」で最後の相手となった実妹に手をかけたことで得たものだった。怒りや愛情といったすべての感情を断ち切った結果、幽連は人外の強さを手にしたのである。

 幽連の圧倒的な力の前に打ちのめされ、倒れ込んだ羌瘣。復讐を諦め、意識が遠のきかけたその時、彼女は一筋の光を見つける。それは、いつしか自分の大切な居場所となっていた飛信隊の存在だった。

 感情を捨て去ることで人外の力を得るのが「祭」の目的だが、羌瘣はその対極にある“光”(仲間との絆)を力とすることで、さらに深い領域へと精神を沈めることができるという、巫舞のもう一つの真理に到達する。

 精神を沈める限界は「魄領(はくりょう)」と呼ばれ、その力を解放するには意識を完全な闇に落とさねばならない。羌瘣はその闇の中で飛信隊という光を背に感じ、姉のような存在だった羌象の魂に見守られていることを確信。覚醒した羌瘣の速さと力は幽連を上回り、激闘の末についに倒したのであった。

 龐煖とは異なる強さで羌瘣をギリギリまで追い詰めた幽連。彼女もまた、作中屈指の剣士の一人であることは間違いないだろう。

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