いつの時代も少年たちのバイブルとして、時代を超えて愛されてきた『週刊少年ジャンプ』(集英社)。「友情・努力・勝利」という三原則を掲げ、数々の冒険活劇やスポーツドラマで多くの読者に夢と勇気を与えてきた。
しかし、発行部数653万部という驚異的な記録を打ち立てた「ジャンプ黄金期」と呼ばれる1980年代から90年代の誌面を振り返ると、その王道の輝きとは一線を画す異彩を放つ作品の存在に気づかされる。
そこには、少年誌の限界を試すかのような過激なバイオレンス、背筋が凍るホラー、さらには人間の心の闇を容赦なく描き出した異色作が確かに存在していたのである。
今回は、そんなジャンプ黄金期の中でも強烈な存在感を示した3作品に注目。当時の少年たちを驚愕させた「異色の名作たち」の魅力を、あらためて振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■法で裁けぬ悪を討つ! 闇の執行人『ブラック・エンジェルズ』
まず1作目は、平松伸二氏による『ブラック・エンジェルズ』だ。1981年から1985年まで連載された本作は、法では裁けない悪人を闇の執行人が抹殺するという、いわば現代版『必殺仕事人』さながらのハードなテーマを掲げた“仕置人もの”である。
特筆すべきは、本作に登場する「外道」たちの非道さだろう。家庭内暴力、薬物、暴力団、悪徳金融など、現実社会の暗部を剥き出しにしたような悪人たちが次々と登場し、善良な市民や罪のない子どもたちが犠牲になっていく。思わず目を覆いたくなるような展開は、読者の心に強烈な憤りを蓄積させた。
そんな救いようのない悪人たちを裁くのが、主人公の雪藤洋士である。彼は被害者から一切の報酬を受け取らず、法の網をくぐり抜けて私欲を肥やす外道のみを標的とし、死の制裁を下す。
愛用の自転車のタイヤをシュルルと回し車輪を支えるスポークを引き抜き、「地獄へおちろ」という決めゼリフとともに悪人の急所へ突き立てる様子は、悪が報いを受けるカタルシスとともに少年誌離れした残酷な描写で、当時の読者に強烈な衝撃を与えた。
物語は中盤以降からスケールが拡大し、日本支配を目論む巨大組織「竜牙会」や、対立する執行人集団「白い天使(ホワイトエンジェル)」との死闘が繰り広げられる。初期の社会派復讐劇とは異なる迫力を見せながら、作品は“ジャンプらしい”能力バトル漫画へとシフトしていくが、その根底には「悪を決して許さない」という、強烈なテーマが一貫して流れていた。
極めて残酷な描写と不条理な社会への怒りが融合した『ブラック・エンジェルズ』は、まさにジャンプ黄金期の「影」を象徴する一作として、今なお読者の記憶に深く刻まれている。
■令嬢が復讐のサイボーグに…伝説的怪奇SF『メタルK』
次に取り上げるのは、鬼才・巻来功士氏による『メタルK』である。1986年に連載された本作は、わずか10話という短期連載ながら、少年誌の常識を覆すダークな世界観で読者に衝撃を与えた。
物語は、少年誌とは思えぬ凄惨な事件から幕を開ける。大企業の令嬢・冥神慶子は、信頼していた婚約者の裏切りによって両親を殺され、自身も生きたまま焼かれてしまう。しかし、彼女の脳はひそかに回収され、機械の体に移植されてサイボーグ「メタルK」として復活。全身を機械化された体で、裏切り者たちへの壮絶な復讐を開始するのだった。
怒りによって機械の体が異常発熱し、人間の皮膚を模した外装が溶けて金属骨格があらわになる姿は、恐ろしくもどこかスタイリッシュな魅力がある。その姿は映画『ターミネーター』(1984年)に登場するTー800を彷彿とさせるが、作品全体に漂う雰囲気はハリウッドSFというより、日本の怪奇漫画に近い湿り気を帯びた不気味さである。
その最たる例が、主人公・慶子のキャラクター造形にあるだろう。彼女はサイボーグでありながら、どこか気品と妖しい色気を漂わせるヒロインとして描かれている。一方、その戦い方は苛烈で、外装に仕込まれた濃硫酸を抱きついて浴びせたり、「硫酸鞭」を振るい敵の肉体を溶解させるなど、その攻撃は容赦がない。
また愛犬・ジェイソンまでもが、おどろおどろしいサイボーグ犬として復活を遂げ、鋭い刃で敵を切り裂く戦闘マシンと化している点も、本作の異様さを際立たせている。
連載は開始早々から巻末掲載が続くなど苦戦が続いた。結果として短期で幕を閉じたが、その唯一無二のビジュアルと悲劇のヒロイン像は、当時の読者に大きなインパクトを与えたのである。


