■復讐の業と儚さを演じ分けた一人二役『無限の住人』浅野凜と町

 三池崇史監督が沙村広明さんの伝説的コミックを実写化した『無限の住人』(2017年)。本作で杉咲さんが演じたのは、福士蒼汰さん演じる統主・天津影久が率いる謎の剣客集団「逸刀流」に復讐に両親を殺され、復讐を誓う少女・浅野凜である。

 特筆すべきは、彼女が本作でヒロインの凜だけでなく、木村拓哉さん演じる万次の亡き妹・町も演じており、一人二役に挑んだことだ。

 凜を象徴する鮮やかな赤の着物と黄色い帯を纏い、小柄な杉咲さんが“復讐”という業を背負う姿には、観る者の胸を締め付けるような悲壮感が漂っていた。その一方、ある事件が原因で心を病み、幼児退行してしまった町を演じる場面では、風車にそっと息を吹きかける無邪気な姿が、あまりにも儚い輝きを放っていた。

 主演を務めた木村さんは作品を振り返り、“凜と町を演じるのは杉咲さん以外は想像もできない”と語った。また「『なぜ、万次は人を斬るのか?』という根源的な問いを投げかけてくれた」「弱いからこそ歯を食いしばり、踏ん張れる…。そんな凜の魅力を杉咲さんが見事に表現してくれた」と、最大級の賛辞を贈っている。

 まさに本作の核となる「万次が戦う理由」を、杉咲さんの演技が静かに、しかし力強く支えていたのである。

■気高さと人間的な弱さを併せ持つ死神『BLEACH』朽木ルキア

 『無限の住人』では「仇と復讐者」という間柄だった福士さんと杉咲さん。そんな2人が、久保帯人さんの大人気漫画を実写化した映画『BLEACH』(2018年)で再共演し、一転して運命を共にする最高のコンビとしてタッグを組んだ。

 杉咲さんが演じたのは、福士さん演じる主人公・黒崎一護に死神の力を譲渡する、物語の鍵を握るヒロイン・朽木ルキアだ。黒の死装束に身を包んだ凛々しい姿も、死神の力を失ってから身に着けるグレーの制服姿も、そのビジュアルは原作からそのまま飛び出してきたかのような完成度だった。

 その再現度の高さは、彼女の徹底した役作りに裏打ちされている。杉咲さんは原作への敬意から、台本に漫画のコピーを貼り付け、常に「朽木ルキア」の視覚的な立ち振る舞いを意識していたという。そのストイックな姿勢により、ルキア独特の「凛とした佇まい」と、死神としての気高さが見事に再現された。

 一方で、アクションシーンでは実写ならではの葛藤もあった。淡々とした表情で戦う原作のルキアに対し、“必死になると顔に力が入ってしまう”という自身の癖を自覚。さらに、“人を傷つけてしまうかもしれないという恐怖心の中で戦わなければいけない状況は本当に怖かった”と、のちに振り返っている。

 その繊細な優しさこそが彼女の素顔なのだろう。それでも劇中では、死神としての覚悟を感じさせる見事な殺陣を披露していた。

 

 こうして振り返ってみると、杉咲花さんという俳優の凄みは、単にキャラクターのビジュアルを再現するだけではないことが分かる。その原作キャラクターが抱える葛藤や意志を深く掘り下げ、実写ならではの血の通った人物として落とし込んでいる点にこそ、彼女の真価があるのだ。

 朝ドラで国民的な支持を得て、現在は『冬のなんかさ、春のなんかね』でも圧巻の演技を見せている彼女。これからも実写化という高いハードルを、その確かな表現力で鮮やかに乗り越えていくだろう。進化を止めない彼女の次なる挑戦から、今後も目が離せない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3