1976年(昭和51年)に公開された映画『犬神家の一族』(原作・横溝正史/監督・市川崑)は、「角川春樹事務所」製作の、いわば「角川映画」の記念すべき第1作となる劇場作品です。
角川映画は、いわゆる“メディアミックス展開”の象徴であり、「角川商法」と称されるほどインパクトある戦略でした。
昭和の書店を思い返すと、店内には角川映画のポスターやチラシが貼られ、原作や関連書籍には宣伝帯、レジ横にも映画販促のしおりや割引券が積まれているのは、当時の本好きには見慣れた光景です。
公開前はテレビCMもバンバン流れ、「快……っ感」(『セーラー服と機関銃』)など、キャッチーなセリフと主題歌が耳に残ります。当時子どもだった私たちは、内容も知らずに真似をしていたものです。
当時の角川映画は、角川春樹氏の強力なリーダーシップにより、膨大な広告費を投じるメディアミックス戦略で日本の映画産業をけん引。数々のヒット作を生み出し、社会現象となりました。
特に1976年から1986年あたりが全盛期とされ、角川映画からデビューした薬師丸ひろ子さん、原田知世さん、渡辺典子さんらは「角川三人娘」と呼ばれて絶大な人気を誇りました。
そんな角川映画が絶好調だった1980年代には、アニメーション分野にも進出。角川アニメ映画は当時の最高技術、巨額の制作予算、トップクリエーターの起用、そして大規模な宣伝活動によって、日本のアニメ界に「大作主義」をもたらしたのです。
これまで子ども向け、あるいはマニア向けとされた「アニメ」というジャンルを、角川映画は「一般層向けのエンターテイメント」にして成功。さらにジャンルの垣根を超えた才能が集結し、今も多くのファンを魅了し続ける圧倒的なクオリティの映像作品が生まれたのです。
今回は、当時足しげくアニメ映画を見るために映画館に通った筆者が、数ある角川アニメ映画の中から印象的かつ伝説的な作品を振り返りたいと思います。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■「ハルマゲドン接近!」綿密な作画による圧倒的な映像美――『幻魔大戦』
1983年に公開された『幻魔大戦』は、角川映画がアニメ製作に参入した記念すべき第1弾。宇宙の破壊者「幻魔」の地球侵略に対抗すべく、主人公・東丈をはじめ世界中の超能力者たちが集結して戦う物語です。
SF作家の平井和正氏と漫画家の石森(石ノ森)章太郎氏の共作による漫画『幻魔大戦』、そして平井氏による同名小説を原作に、巨匠・りんたろう監督が映像化。さらに当時新進気鋭だった大友克洋氏をキャラクターデザインに抜擢したことでも、大きな話題を呼びました。
一方、小説の挿絵を担当した生賴範義(おおらい のりよし)氏の絵柄に慣れ親しんだ小説読者からは、可憐な王女ルナや主人公・東丈のキャラデザの変化に対して困惑する声もありました。
当時のアニメ主人公たちは美形キャラが主流でしたが、大友氏ならではの鋭い目つきや少々武骨なデザインに昭和のファンは衝撃を受けたのです。
また、膨大な長編原作を2時間の映像に凝縮したことで、「壮大な序章だけで終わった」「予備知識がないとキツイ」といった意見もあり、中には原作の深みよりも映像面の派手さが際立った作品という声があったのも事実です。
しかし、アニメーターの金田伊功氏による躍動感あふれるエフェクト(金田パース)、緻密に描かれた大都市の破壊描写や超能力バトルの圧倒的な映像美は、その後の日本アニメ界に計り知れない影響を与えます。
さらにプロモーションにも抜かりがありません。当時「角川三人娘」として人気を誇った原田知世さんをタオ役の声優として抜擢。ロック界の巨星キース・エマーソン氏を音楽監督に起用し、主題歌『光の天使』をローズマリー・バトラーが歌いあげます。
見事な音楽で作品世界を壮大に彩ったこともあり、本作は単なるアニメを超えた伝説的な映画作品としての地位を確立しました。
1983年の春に公開された競合作品には、『クラッシャージョウ』や『宇宙戦艦ヤマト 完結編』、さらには『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』といった強力なアニメ映画がひしめき合いました。そんな中、角川映画初のアニメ『幻魔大戦』は同年のアニメ映画興行成績1位の快挙を成し遂げたのです。
こうして角川映画は『時をかける少女』や『里見八犬伝』といった実写の大ヒット作と並び、自社のアニメ映画を国民的な娯楽イベントとして定着させていきました。


