■「美しい……!」対照的な宿命を背負った2人の男と命の行方――『火の鳥 鳳凰編』
1986年公開の『火の鳥 鳳凰編』は、3作続いた春の公開(3月)ではなく、冬(12月)に公開されたアニメ映画。手塚治虫氏のライフワークである漫画を、りんたろう監督が歴史ロマンあふれる映像美と壮大なスケールで描きました。
同作の舞台は奈良時代で、隻眼隻腕の盗賊・我王(がおう)と天才仏師・茜丸という対照的な2人の数奇な運命を通して、「命の尊さ」や「輪廻転生」を描いた傑作です。
作中で描かれる我王の苦悩は、見ている側が痛々しくなるほどです。しかし、絶望の果てに彼がつかんだ「真理」には、言葉にできないほどの感動があります。特に、愛する速魚(はやめ)を疑い、殺めてしまうシーンの切なさ、そして懺悔する我王の姿に涙がこぼれます。
また、逆の意味で印象に残ったのが、かつては人の良かった茜丸の変貌ぶりです。貴族の権力争いに巻き込まれ、名声欲に取り憑かれていく茜丸。それに対し、命の尊さに目覚めた我王……。光と影のようだった二人の心が、物語が進むにつれて真逆に入れ替わる過程に、逃れられない「人間の業」を感じました。
奈良時代の絢爛豪華な大仏殿と、自然の中で我王が「美しい……!」とつぶやくシーンの対比も素晴らしく、今も忘れられません。
350ページもある原作漫画を60分の映像に凝縮した手腕にも感嘆しますが、個人的に気になる変更点もありました。
原作で二人が競うのは大仏殿に奉納する「鬼瓦」でしたが、映画では「鳳凰(火の鳥)像」に置き換えた点です。我王の人生を思えば「怒り」を象徴する鬼瓦がふさわしい気もしますが、ビジュアルの華やかさや、何より角川書店のシンボルマークである「鳳凰」を意識した商業戦略だったのかもしれません。
本作に関するメディアミックス展開は、まさに「角川映画」全盛期の勢いを象徴。主題歌には「角川三人娘」の渡辺典子さんを起用するなど、話題性にも事欠きませんでした。
ちなみに同時上映の『時空の旅人』は眉村卓氏の小説を原作に、萩尾望都氏がキャラクターデザイン、さらに竹内まりやさんが主題歌を担当するという、こちらも「最強の布陣」で制作された91分の大作です。
映画公開に合わせて原作漫画の文庫化や小説の宣伝、上映直後にどちらもファミコンソフトが発売されるなど、さまざまなメディアに展開されました。


