学生時代、ドキドキしながら夢中でページをめくった少女漫画。登場人物の想いや悩みのひとつひとつに心を重ねながらその恋の行方を追い続け、その先に待つハッピーエンドの結末に思わず涙した記憶を持つ人は多いはずだ。
そうやって読者の心を揺さぶる力こそが、少女漫画の大きな魅力だ。特に、90年代の作品は主人公だけでなく周囲までもがハッピーエンドを迎える王道の作品が多い傾向があった。
何年経っても色褪せない甘酸っぱい恋の物語の数々は、大人になった今読んでも確実に涙腺を刺激することだろう。そこで今回は、輝かしい名作が次々に生まれた1990年代の少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)から、多くの読者の胸をときめかせた名最終回を振り返りたい。
■感動の卒業式に涙が止まらない『天使なんかじゃない』
1991年から1994年にかけて『りぼん』で連載された矢沢あいさんの『天使なんかじゃない』。コミックス全10巻というコンパクトな構成の中で恋や友情に揺れ動く登場人物たちの心情を丁寧に描き切った本作は、胸に残る名セリフと切ない情景描写の数々によって、当時のティーンエイジャーを夢中にさせた名作少女漫画である。
物語の軸は、聖学園に入学した主人公・冴島翠と須藤晃の恋だ。翠は晃に一目ぼれし、初創設の生徒会でともに活動しながら恋仲になっていく。しかし、彼女は次第に美術教師・牧博子と晃の関係に疑念を抱き、嫉妬や不安に押し潰され、やがて別れという選択に至ってしまう。
だが、友人に戻っても心に宿るお互いへの愛が消えることはなかった。そして、異母兄・将志を追って海外へと飛び立った晃は、帰国後に「おれがおれの手で幸せにしてやりたいと思うのはお前だけだ」と翠に想いを告げる。
高校時代のすべてを捧げた二人の愛が、ようやく成就したのだ。晃を愛するがゆえに心を痛め続けてきた翠がやっとようやく安らぎと幸せを掴んだこの瞬間、思わず涙が流れたという読者も多いだろう。
最終回では、翠たちがついに卒業式を迎えた。いつもより念入りに髪を整えた翠は、卒業生を代表して壇上に立ち、晃や友人たちに励まされながら「この学園にきてよかった。みんなに会えてよかった!」と答辞を述べる。その姿は、これまでの積み重ねすべてを象徴するような美しい一幕だった。
時は流れ、第八回聖学園入学式。翠は一年生の美術を担当する新任教師として再び学園に戻るのだった。
入学から始まり、卒業という節目で幕を閉じた『天使なんかじゃない』。恋や友情のときめきはもちろん、人を愛することで生まれる不安や迷いをきめ細かに描いているからこそ、甘酸っぱさや初々しさだけでは語りきれない翠と晃の愛が多くの人々の心に残るのだろう。
■禁断の恋の行方にドキドキ『ママレード・ボーイ』
1992年から1995年にかけて『りぼん』で連載された吉住渉さんの『ママレード・ボーイ』も印象深い作品の一つだ。
本作の注目すべき点は、主人公の両親同士がパートナーを交換して再婚し、同居することになった両家の子供たちが恋に落ちるという奇抜な設定にある。しかし、いまだかつてない状況から生まれた禁断の愛の物語は読者の目を釘付けにした。
彼らの恋は前途多難。遊の元カノ・亜梨実や光希に恋心を抱く幼馴染・銀太の存在や複雑な家族関係の露見など、ヘビーな展開が続くのだ。
それでも光希と遊は絆を深めていったが、そこに”光希と異母兄弟かもしれない”という衝撃の疑惑が浮かび上がる。絶望した遊は光希を突き放すが、どれだけ離れてもお互いへの愛の炎は消えなかった。
そして、遊は涙を流しながら自分への想いを吐露する光希を見て、「結婚しよう。常識だってモラルだってお前のためなら打ち破ってやる」とプロポーズ。冷静に考えればとんでもない決断だが、禁断の愛に走る彼らの姿には胸が締め付けられてしまう。
「両親に話そう」と決めて迎えた最終回。二人は両親’sの前に立ち、結婚したいと思っていること、出生の秘密を知っていることを打ち明ける。両親’sは驚くが、真剣な二人を見ると冷静に自分たちの過去について語りだした。
それによると、彼らはもともと二組のカップルだったが、喧嘩をきっかけに関係が入れ替わり、互いの恋人と結婚して子どもをもうけたという。今回の再婚は、再会した彼らが元の組み合わせに戻った結果なのである。なんとも奇想天外な話だが、これによって光希らは異母兄弟ではないことが判明し、晴れて恋人同士となるのだった。
大人たちの身勝手な選択の中で出会い、悩み、傷つきながらも想いを貫いた光希と遊の姿は読者の心を大きく揺さぶった。『ママレード・ボーイ』は、過酷な現実に抗いながらも愛を貫く尊さを伝えてくれる作品だ。


