まさかあの子が、あんな姿になるなんて……。アニメや漫画の世界には、見た目の印象を大きく裏切るキャラクターが存在する。一見すると無邪気で愛らしい表情の奥に、想像を超えるほどの戦闘能力や恐るべき本性を秘めていることがあるのだ。
普段は癒し系やマスコット的な存在でありながら、いざ戦いとなれば誰よりも苛烈に、あるいは恐ろしく変貌する彼ら。その豹変した姿で見せる活躍ぶりは、単なる意外性を超えたカタルシスを観る者にもたらす。
今回は、そんな“可愛さ”と“恐ろしさ”が紙一重で共存し、強烈なギャップを放つ魅力的なキャラクターたちを紹介していく。
※本記事には各作品の内容を含みます
■可憐な少女がムキムキに!?『HUNTER×HUNTER』ビスケット=クルーガー
まずは、冨樫義博氏の漫画『HUNTER×HUNTER』から。「グリードアイランド編」で登場するビスケット=クルーガーは、ハンター界でも高位の二ツ星(ダブル)を持つストーンハンターである。彼女は当時のハンター協会会長アイザック=ネテロが創始した「心源流拳法」の師範でもあり、折り紙付きの実力者だ。
しかし、その見た目は金髪の巻き髪に大きなリボン、フリルたっぷりのワンピースを着こなす可憐な少女そのもの。どう見ても主人公のゴン=フリークスたちと同年齢の“お嬢様ヒロイン”にしか見えず、初登場時は誰もがそのギャップに戸惑ったことだろう。
だが物語の終盤、ゲンスルーの仲間・バラとの戦いで、ビスケはついに“真の姿”を現す。
バラの一撃を受けて砂浜に叩きつけられた彼女はゆっくりと立ち上がり、静かに言葉を放った。「思い出に一発撃たせてあげることにしてるの 元に戻るとうまく手加減できなくて…たいてい殺しちゃうから…」と。
その直後、ビスケの体はみるみるうちに膨張をはじめる。腕は太くなり、肩は盛り上がり、華奢だった輪郭がみるみるうちに変貌していくのだ。そして現れたのは、自身も「ったくゴツイったらありゃしない」と嘆くほどの筋骨隆々の大女だった。
そしてビスケは一撃でバラを沈め、気絶した相手を片手でつまみ上げると「聞いてないか」と呟く。その光景は、恐ろしさと同時に、奇妙なカッコ良さを放っていた。
■仲間を思うあまり暴走した『ONE PIECE』トニートニー・チョッパー
可愛い見た目が豹変するキャラと言えば、尾田栄一郎氏の描く『ONE PIECE』のトニートニー・チョッパーもそうだろう。
麦わらの一味の船医・トニートニー・チョッパーは、青い鼻がトレードマークの心優しきトナカイだ。ピンクの帽子をかぶり、ちょこまかと駆け回る姿は、まるで一味のマスコットのように愛らしい。人語を話し、薬を調合して仲間の傷を癒やす。その優しさこそが、彼の最大の魅力だ。
だが、仲間を思うその“優しさ”が裏返るときがあった。それは「エニエス・ロビー編」でのCP9との死闘のさなか。強敵クマドリとの戦いの中で、チョッパーは仲間を救う力を求め、禁じられた手段に手を出してしまう。通常は3分間の強化を可能にする薬「ランブルボール」を、規定以上に服用してしまったのだ。
次の瞬間、チョッパーの体は凄まじい勢いで膨張し、骨が軋み、全身の毛が逆立つ。鋭い角が伸び、理性が崩れ落ちていく。雄たけびを上げたチョッパーの姿は、もはやトナカイでも人間でもない、巨大な“怪物”であった。
それまで苦戦していたクマドリを、強烈な張り手1発で圧倒。倒れ込んだ相手に対し、暴走したチョッパーは何度も攻撃を叩きつける。その容赦のなさに、敵ながら気の毒になるほどだった。
白目をむいて気絶するクマドリを片手でつかむと、遠くへと放り投げる。その後も暴走は止まらず、建物の外壁をよじ登り、敵も味方も区別できず、ただ本能のままに暴れ続けた。
のちにチョッパーはこの暴走形態を制御し、「新世界編」以降では理性を保ったまま「怪物強化(モンスターポイント)」を使いこなせるようになる。しかし、この初めての暴走シーンは、優しすぎる医者が生んだ“悲しき怪物”の姿として、今も多くの読者の記憶に深く刻まれている。


