右京も古畑も…名作ドラマ「一度も現場に行かず」事件を解決した“名推理”の画像
DVD『古畑任三郎 3rd season 1』 (C) フジテレビ/共同テレビ

 犯行現場を繰り返し調査する「現場百遍(げんばひゃっぺん)」は、事件捜査の心得として広く知られる言葉だ。しかし、卓越した頭脳を持つ人物は、現場に行かずとも“話を聞いただけ”ですべての謎を解き明かすことがある。

 ミステリーの世界では、こうした探偵は「安楽椅子探偵」と呼ばれる。彼らは事件現場に行くことなく、もたらされた情報だけを頼りに、純粋な論理と推理力で真相を解明する。まるで“自室の安楽椅子でくつろぐかのように”事件を解決する姿が、その呼称の由来だ。

 日本の有名な推理ドラマでも、主人公がこの「安楽椅子探偵」的な活躍を見せることがある。今回は、その中でも特に印象的なエピソードを振り返ってみたい。

※本記事には各作品の内容を含みます

■『相棒』入院患者・右京が詐欺師集団の陰謀を暴く!

 放送開始25周年を迎えた『相棒』は、警視庁きっての頭脳を持つ杉下右京とその相棒が難事件に挑む国民的刑事ドラマだ。

 そんな『相棒』には、公式に「安楽椅子探偵回」とされるエピソードがある。それが、season23の第12話「細かいことが気になる患者」だ。

 物語は、右京が病院のベッドで優雅に紅茶を飲んでいる場面から始まる。脳波の“異常な細かさ”を指摘され、検査入院していたのである。しかし、その病院は経営難に陥っており、おまけに怪しげなコンサルタント会社に狙われていた。

 そのリーダーは、ライリー・櫻井という凄腕の詐欺師である。彼ら一行を一目見て怪しんだ右京は、身分を悟られないよう、あくまでも入院患者として探りを入れることに。

 亀山薫をはじめとした仲間たちを動かし、着々と情報を集める右京。そして角田六郎課長に「お前さんここで安楽椅子探偵気取りかよ」と評された通り、自分は病院から一歩も出ずに陰謀を暴いていくのである。

 いつもの特命係の部屋ではなく、病室で推理を繰り広げる右京の姿は新鮮だ。さらに、『地面師たち』を彷彿させる遊び心やコミカルなやり取りも多く、ライトに楽しめるのも本エピソードの魅力だ。

 日焼けの跡や腕時計の時刻といった細かい“違和感”から始まった捜査が、やがて大きな陰謀を暴いていく流れはお見事。殺人は起こらないが、詐欺師の手から病院を救う大活躍を見せた。

 右京が入院着姿の「安楽椅子探偵」からいつものスーツ姿に戻り、詐欺師グループを徹底的に追及するラストはまさに爽快だ。

■『古畑任三郎』過去の“完全犯罪”の真相を解明

 伝説的な刑事ドラマ『古畑任三郎』の「安楽椅子探偵回」といえば、第2シリーズの最終回「ニューヨークでの出来事」だ。

 ニューヨークへ向かう深夜バスの中、“完全犯罪をしたことがある”と語るのり子・ケンドールと出会った古畑任三郎。すぐに「友だちの話」とごまかしはしたが、それは彼女自身の過去だ。興味を引かれた古畑は、彼女の語りから事件の真相を解き明かしていく。

 6年前、アメリカの人気作家が毒殺され、日本人の妻が真っ先に疑われた。被害者が最後に口にしたのが妻から渡された“今川焼”だったこともあり、彼女はすぐに逮捕された。しかし、夫が“今川焼”を割って妻と一緒に食べていたという目撃証言から、無罪に。事件は夫の自殺として処理されていた。

 解決の鍵は、アメリカ人にはわからないであろう日本人特有の感覚にあった。「冷めた今川焼は固くておいしくない」。その違和感をきっかけに、古畑はのり子の完全犯罪を崩してみせる。

 のり子は“食べる前にオーブンであたためた”と説明するが、古畑はそこに矛盾を見出した。彼女の話では、その時オーブンは家政婦がローストビーフを焼くのに使っていたはずだからだ。のり子は「トースターのことを言ったんです」とごまかすが、分厚い今川焼がトースターには入らないことを古畑は指摘する。

 実は、被害者が渡されたのは“今川焼”ではなく“たい焼き”だった。単なる円形の今川焼とちがい、魚の形をしたたい焼きであれば、頭側と尻尾側のどちらに毒を入れたかはたやすく判別できる。だからこそのり子は、たい焼きを今川焼と偽った。これが毒殺事件のからくりだったのだ。

 「現場にいなくとも」どころか、時を超えて事件を解決する古畑の推理力は、さすがの一言に尽きる。のり子の話の矛盾点はどこか、なぜアメリカの捜査機関はそれを見抜けなかったのか。視聴者も探偵気分で推理を楽しめる名エピソードである。

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