■明るい紗南の身に起こった悲劇の「人形病」

 紗南は、14歳の母から生まれ、生後間もなく公園へ捨てられるという過酷な生い立ちを背負った少女である。だが、偶然通りかかった作家・倉田実紗子に引き取られ、愛情深く育てられたことで元気で前向きな性格に育った。物語のクライマックスでは、そんな紗南の心の闇が浮き彫りになる大事件が起こる。

 その頃、紗南と秋人は恋人同士になり、幸せの絶頂にいた。だが、秋人の父親のロサンゼルス転勤が決まり、家族全員で移住することになる。ショックを受けた紗南は心を病み、感情が表情に出なくなる「人形病」を発症してしまった。

 これは母親の実紗子が名付けたもので、重度のストレスからくる症状だが、実は紗南がこの病を経験するのは2度目のこと。大切な人が自分のもとから離れていく恐怖が引き金となることから、実紗子は今回の再発の原因が秋人にあると悟る。

 紗南の病を知った秋人はあの手この手で治そうとするが、紗南の病状は逆に悪化。秋人との別れというつらい現実から目を逸らすように、彼の存在すら忘れていってしまう。さらには、過去の発症の際に自分を救ってくれた子役仲間の加村直澄に、再び心を寄せるようになっていく。

 最終的に直澄の叱咤により、心の奥底に閉じ込められた秋人への想いを取り戻した紗南は、心の痛みを抱えたまま駆け落ちを決行。その道中、自分の病を自覚するが、それでもなお辛い現実からは目を背けてしまう。

 現実から逃げ続ける紗南に、ついに秋人の張りつめていた心の糸が切れる。「ホントは…オレの方がさみしーんだ お前と…離れたら ダメんなるのはオレの方だ」と涙を流し、抑えてきた感情を吐き出す。秋人の本音に触れ、自分のことしか考えていなかったと気づいた紗南の顔に、ようやく本来の笑顔が戻るのだった。

 これまで常に元気いっぱいだった紗南が、内面の弱さを露呈し、徐々に壊れていく姿は、読者の心を痛烈にえぐる。中には、読み進めるのがつらくなるほど、不安を感じた読者もいたはずだ。それゆえに、互いに深い苦しみを味わった紗南と秋人が、最後に気持ちを通わせ合うシーンは、涙なしでは見られない名場面となっている。

 

 小中学生向けの少女漫画とは思えないほど、ダークでヘビーなエピソードが次々と描かれた『こどものおもちゃ』。

 少年少女が傷つきながらも、周囲の支えで問題を乗り越え、成長していく姿は、大人になった今読み返すと、より一層胸に迫るものがある。

 ちなみに、番外編の『Deep Clear』では、大人になった紗南と秋人のその後を見ることができるので、気になる人はこちらもチェックしてみてほしい。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4