「劇場で催涙スプレーをまかれた」

――向井さんは「中島さんだと思って演じる」とおっしゃっていました。

中島:自分の思いが入っているのは否定できません。もちろん100%の自分の気持ちを出しているわけじゃなくて、あくまで物語の中で機能する形ではあるんですが。自分が実感しているからこそ言えるものがある、とは思っています。

 ただし、劇団☆新感線においては「無理難題を乗り越えて、芝居を作る」という感覚を持っているのは、僕だけじゃないんですよ。劇団☆新感線って、この45年の歴史の中で、わりとトラブルに見舞われてきているんです。

 そのたびに、キャストだけじゃなく、制作や現場のスタッフも心を燃え上がらせてくれて、そのトラブルを乗り切っているんです。トラブルが起きるたびに、腕まくりをして、トラブルに立ち向かっていく感じがありましたね(笑)。

中島かずき 撮影/イシワタフミアキ

――そんなことがあったんですね。

中島:いろいろありましたよ。たとえば、前売りチケットの販売を開始してから、劇場(会場)が取れていないというトラブルもありましたね。

 芝居の最中での一番ひどいトラブルは、劇場で催涙スプレーをまかれたことですね。そのとき、僕は一番後ろの座席で観ていて、お客さんが出ていくのを見て、「この芝居ってそんなにつまんないですか?」って絶望的な気持ちになったんですよ(笑)。

 ……とまあ、これまでいろいろあったんですが、そういうトラブルが起きると、制作陣が緊急集合して、公演が続けられるように懸命に対策をしてくれる。三谷(幸喜)さんじゃないけど、「SHOW MUST GO ON」ですよ(笑)。今回の作品での天外は、僕というよりも、芝居を作る人全員の代弁者として書いているつもりです。

――中島さんだけでなく、劇団☆新感線のスタッフ全員の思いが、天外に宿っていると。

中島:舞台というものは、表も裏も、同時進行で全員で作るものなんですよね。全員野球だから面白いし、その瞬間ごとにかけがえのないものが起きるんだと思います。あまりきれいなことを言うと、ちょっと照れるんですけど。

――劇団メンバー以外の俳優も参加されますが、脚本を書くときは、キャストの顔ぶれは意識されているんですか?

中島:はい。全部、当て書き(特定の俳優をイメージして脚本を書くこと)です。それはもう、新感線に参加した時からずっと変わらないんですよ。

 劇団に参加したときから、古田新太がいて、橋本じゅんがいて、高田聖子がいた。この個性豊かな役者にどういう役を振ったら面白いか、という発想だけで脚本をずっと書いてきたんです。いろいろな芸能人や役者が参加してくださっても、そこは変わっていません。ずっと当て書きです。

――劇団☆新感線の脚本執筆においては、その出演者の魅力を見抜く力が大事なんですね。

中島:脚本家や演出家にとって大事なことって結局、「人を見る目」だと思うんですよ。役者という魅力ある人がいて、その魅力を引き出したい。自分たちが表現したいテーマや様式があって、そこでその人の魅力を広げてもらいたい。

 新感線は毎回、いろいろなゲストを呼んでいるけれど、やっぱりお客さんにその人の魅力を感じてもらえる舞台を、僕も作りたいと思っているし、いのうえは僕よりもっとそう思っている。僕もいのうえも、そういう舞台が好きだから、新感線をずっと続けているんです。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5