
総作品数80以上のラインナップとなった、2025年夏アニメ。
6話という短い構成ながら国内外で高い評価を受けた『タコピーの原罪』、真夏の田舎を舞台としたホラーアニメ『光が死んだ夏』、1話からトンデモ展開で話題になった『Turkey!』など新作アニメの台頭も目立ち、前作の続編である『怪獣8号』『ダンダダン』『その着せ替え人形は恋をする』など、前回の高評価そのままの好スタートとなった続編アニメも多数放送中だ。
アニメ史を見てもなかなかの豊作で、「神クール」の呼び声高い夏アニメだが、読者の皆さんにとっての「神クール」はいつだろうか? 毎年のように「今年は豊作だ!」と話題になる中、社会現象になった作品を基準にする人もいれば、青春を彩った思い出のクールを真っ先に挙げる人もいるだろう。
今回はそんな人々の記憶に残る「神クール」に焦点を当て、放送当時の話題や、今なお語り継がれる人気シリーズが集中したシーズンを、個人的な視点も込みで選出。これまでのアニメ史に名を刻んだ神クールたちを振り返っていこう。
■深夜アニメブームの火付け役から、語り継がれる名台詞まで!(2006年春アニメ)
まず挙げたいのが、2006年4月からスタートの春アニメ。このクールでは、今なお多くのファンを有する国民的バンドアニメ『NANA』や、2000年代ギャグアニメの金字塔『銀魂』がスタート。どちらの作品も実写化されており、一般認知度も高い人気作品だ。
そんな有名作がスタートした2006年だが、この年で象徴的だったのは、『涼宮ハルヒの憂鬱』だろう。
本作は谷川流氏のライトノベル作品『涼宮ハルヒ』シリーズを原作としており、現在も連載が続く長寿作品。今では一般的になりつつある「深夜アニメブーム」の先駆けにもなり、当時はまだ認知度が高くなかった京都アニメーションの名を一躍有名にした話題作でもある。
登場人物は、平凡な男子高校生・キョンと、浮世離れした美少女・涼宮ハルヒ。新しい部活を立ち上げることにした2人は、文芸部員の長門有希、上級生の朝比奈みくる、転校生の古泉一樹を仲間にし「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」、略して「SOS団」を立ち上げることに……。
本作はエンディングテーマ『ハレ晴レユカイ』に合わせてSOS団がダンスをする、通称ハルヒダンスがニコニコ動画を中心に大流行したこともヒットの追い風となった。また、登場人物のキョンのような、“どこか冷めていて達観している男子”、いわゆる「やれやれ系」の走りにもなり、その後に放送されたキャラクター像にも大きな変化を加えたといえる。
そのほかにも、因習村を舞台とした怪作『ひぐらしのなく頃に』が放送されたのもこのクール。同人サークル『07th Expansion』の代表、竜騎士07氏のノベルゲームが原作となったミステリーホラーアニメだ。
2006年4月から9月で全26話が放送され、血で血を洗うような凄惨な展開から鬱アニメとしても捉えられがち。だが、翌年に放送された続編『ひぐらしのなく頃に解』では、少年漫画さながらの友情・努力・勝利の展開で見事、悲劇の悪循環を脱することに。主要キャラクターである竜宮レナの「嘘だッ!」は、作品を象徴するセリフとして今でも多数のオマージュがなされている。
ホラー、ギャグ、セカイ系と多彩なジャンル、有名作から挑戦的な作品まで揃った2006年春。アニメの裾野を一気に広げた“転換点”として記憶されるクールとなった。
■「1話切り」多数!? 伏線回収がとんでもなかったあの作品も!(2011年春アニメ)
2つ目は、2011年4月から放送された春アニメ。2011年は春以外にも、冬アニメの『魔法少女まどか☆マギカ』、秋アニメの『Fate/Zero』など、アニメ史全体で見ても豊作だったことから選定に悩んだが、筆者は春アニメをおすすめしたい。
このクールでは、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、通称「あの花」が放送された。埼玉県秩父市を舞台に、幼なじみの友人たちと、死亡したはずの少女・めんまを中心に、「超平和バスターズ」たちの感動的な物語と繊細な描写が高く評価され、今でも「泣けるアニメ」の代表作として語り継がれている。
そのほかにも、ヒーローを題材にしたアメコミ調のバディ作品『TIGER & BUNNY』や、京都アニメーションによるハイクオリティ日常アニメ『日常』などがあるが、中でもおすすめしたいのが、タイムリープ系アニメの代表作『STEINS;GATE』だ。
「シュタゲ」の略称で愛され、2009年に発売した同名のアドベンチャーゲームが原作となった本作。主人公で厨二病の大学生・岡部倫太郎が何度も過去や未来の世界線を行き来しながら、仲間たちに起こるさまざまな悲劇の連鎖を止めるために奮闘する物語だ。
仲間を救うために運命を変える…というタイムリープ特有の緊張感もさることながら、特筆すべきはアニメ前半で流れていた内容がすべて伏線となり、後半および第2期ですべてが回収されていく点だ。
たとえば、何気ないガチャガチャの景品、主人公の後ろにいる人物、身に覚えのないメール……。後から観返せばかなり重要なサインなのだが、前半ではこれらがあくまで日常の一片として描かれ、BGMや演出的にも誇張した表現はされない。
筆者の友人はアニメ放送時、9話~10話くらいまで大きな展開がない本作を見て「今期放送のシュタゲ、あんまりかも……」とつぶやいていたが、数週間後には「今年の覇権はシュタゲで決まりだよ」と、見事なまでの手のひら返しをかましてきた。それほどまでに、前半は徹底して情報提示の段階が続く。それゆえ早めに見切りをつけ、視聴をやめた人も多かったそうだ。
放送開始は春だが『シュタゲ』は真夏が舞台となっていることもあり、まだまだ続く夏気分を盛り上げるのにもうってつけな作品。また、2011年は春以外にも豊作の年なので、他作品にも注目してもらいたい。