
スクウェア・エニックスは、1997年に発売された『ファイナルファンタジータクティクス』のリマスター版にあたる、『ファイナルファンタジータクティクス イヴァリース クロニクルズ』を2025年9月30日に発売することを発表した。
初代プレイステーション用ソフトとして発売された『ファイナルファンタジータクティクス』は、FFシリーズ初のシミュレーションRPG。シリーズおなじみのナイトや黒魔導士、竜騎士といったジョブを自由自在に編成できる戦略的な要素が魅力だ。貴族、宗教、戦争が絡む、シリアスで重厚なストーリーも多くのファンを魅了した。
しかも、その物語の中には当時のプレイヤーに衝撃を与えた壮絶なシーンが続出。登場人物を取り巻く、あまりにも過酷な運命の連続に胸が苦しくなったことを思い出す。
そこで今回は、当時遊んだ初代プレステ版『ファイナルファンタジータクティクス』において、特に印象に残った忘れられないシーンを振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■貴族と平民の「身分差」を象徴する痛烈なセリフ
まずは主人公のラムザが、盗賊として知られる「骸旅団(むくろりょだん)」の殲滅作戦に参加したときの出来事。その任務には、少し前に盗賊に襲われているところを助けた貴族の青年アルガスも同行していた。
そのなかで、骸旅団の女剣士ミルウーダが「私たちは貴族の家畜じゃない。数カ月も豆だけのスープでしのいだことがあるのか?」と訴えるシーンがある。そこまで困窮している平民の生活状況を聞き、盗賊をせざるを得なかったことに同情させられる場面だ。
しかし、それを聞いた貴族のアルガスは「同じ人間だと? 汚らわしい。生まれた時から貴族のために尽くすことは天の意思で決まっている」と反論。それにミルウーダは「神の前では何人たりとも平等なはず。神がそんなことを許すはずがない」と否定する。
するとアルガスは平然と「家畜に神はいない」と言い放つ。平民は家畜だと言い切る貴族の価値観に目を疑い、人間のおぞましい部分を見せつけられたようでゾッとした場面だ。
あらためて振り返ると、同作の世界観を端的に示したシーンだと理解できるが、当時は「なんでこんなヤツを助けてしまったんだ……」とアルガスに対する嫌悪感が急激に膨れ上がった出来事でもあった。
■すべてが崩れていった残酷すぎる決断
主人公ラムザの家である騎士の名門「ベオルブ家」の邸宅が骸旅団の襲撃を受ける。両親を失った平民のディリータとティータという兄妹はベオルブ家に引き取られ、家族同然に暮らしていた。そして骸旅団は、ベオルブ家の令嬢だと勘違いし、平民のティータを誘拐してしまう。
この状況に騎士団はすぐに動く。ベオルブ家の当主であるラムザの兄・ダイスダーグは人質のティータを取り戻すまで総攻撃はしないことをラムザに約束。その戦いにダイスダーグ自身は出撃せず、長兄の指示で出撃したのはラムザの次兄・ザルバックである。
その後ラムザたちが敵のアジトに急行すると、骸旅団はティータを盾にして騎士団の撤退を要求。するとラムザの兄・ザルバックは盗賊の要求を拒否し、総攻撃を命じたのである。
敵の副団長を狙って放たれたアルガスのボウガンは、無情にもティータの体に突き刺さり、彼女は命を落とす。ティータを見殺しにされたことで、彼女の兄ディリータは激怒。その怒りは、親友だったはずのラムザにも向かう。「オレに構うな。アルガスの次はお前の番だ」という言葉が胸に刺さる。
平然と平民を見殺しにしたザルバックの選択は、この世界の貴族の価値観としては当然のものなのだろう。だが、ラムザの視点からは家族同然のティータが死に、兄への信頼が崩壊し、親友からも恨まれるという、あまりの絶望に胸が苦しくなる展開だった。