■あの名場面をもう一度…
物語の序盤は純と螢が小さいこともあって比較的ホンワカしているが、子どもたちが成長していくにつれ、次第に不倫、倒産、借金、妊娠……などのディープな問題が次々と勃発し見どころも増える。そして同時に、後々まで語り継がれる名場面がいくつも生まれていく。
たとえば、ドラマ17話はその名場面の一つだ。北海道の暮らしに少し慣れた頃、母親の令子(いしだあゆみさん)が弁護士を連れて正式な離婚話をしに訪ねてくる。久しぶりの再会に喜ぶ純だが、母の不倫が原因だと知っている螢は冷たい態度を取り、最終日も見送りにいかなかった。
だが、令子が列車に乗っていると、列車を追いかけて泣きながら空知川沿いを走る少女の姿が見える。それは、母との最後の別れをしにきた螢だった。令子は窓をあけ、ちぎれるほどに手を振るのだった。家族を裏切った母への怒りと恋しさの狭間で一人葛藤していた螢が最後に見せた素直な想いに、涙があふれてしまう。
筆者の中でもう一つ印象的だったのが、『’87初恋』のラストシーンだ。中学3年生になった純は、父親との確執や初恋相手のれい(横山めぐみさん)の母親の事故死、そしてれいとの突然の別れなど様々な出来事を乗り越え、東京へ向かう。
送ってくれるトラック運転手(古尾谷雅人さん)に挨拶をして乗り込むと、運転手から封筒を渡される。中には汚れた1万円札が2枚。運転手の「ピン札に泥がついている。お前のおやじの手についてた泥だろう。オラは受け取れん。お前の宝にしろ。貴重なピン札だ、一生とっとけ」という言葉を聞いた純は、北海道にきてからの日々を想い出し涙を流す。言葉にせずとも、お札についた泥から五郎の苦労と純への愛情が伝わり、胸が締め付けられるシーンである。
その他にも、ミームにもなった「子どもがまだ食ってる途中でしょうが!」のシーンや、不倫・妊娠という泥沼を超えて笠松正吉(中澤佳仁さん)と結ばれた螢の結婚式での草太兄ちゃん(岩城滉一さん)のスピーチなど、涙腺崩壊必須なエピソードばかり。
SNSに寄せられたコメントの中には、こういった名シーンをもう一度見たいという声も多かった。ただ、これらはすべてスペシャルドラマの話なので、いつか放送してくれることを願うばかりだ。
80年代の作品ゆえ、作中には令和にそぐわない表現もあるだろう。だが、それを含めて『北の国から』という名作。より多くの視聴者が楽しめるよう全国放送してくれるとありがたいものである。未視聴の人は、この機会にチェックしてみてはいかがだろうか。