■怖さを超えた切なさ…『剣盾』ポーラの「ふるびたてがみ」
子どもにトラウマを植えつけることが多い『ポケモン』のホラーイベントだが、なかには心がじんわりと温かくなるエピソードもある。2019年に発売された『ポケットモンスター ソード・シールド(剣盾)』のナックルシティで発生する「ふるびたてがみ」のイベントは、幽霊への恐怖心がそれを上回る切なさで中和される話だった。
ナックルシティの片隅に佇む少女・ポーラに話しかけると、“好きな人への手紙を届けてほしい”とお願いされる。ポーラは主人公よりさらに幼く、現実なら幼稚園か小学生低学年といったところだ。
お願いを聞くと、ナックルシティから少し離れた町に住むフランクくんに宛てた「ふるびたてがみ」を渡される。いざアラベスクタウンに行ってみると、確かにフランクくんはいた。孫に囲まれて幸せそうに暮らす、恰幅のいいおじいさんのフランクが……。
ポーラの話をすると、フランクは懐かしそうに語りだす。幼いころにポーラという女の子と友達だったことや、ポーラが病気を隠していたこと。そして、ケンカ別れをしたまま彼女と会っていないこと……。
「ポーラちゃん 元気に してたかね?」と、フランクおじいさんに聞かれたときは、なんと答えればいいかわからなかった。
「ふるびたてがみ」を渡したあとにナックルシティへ戻るとポーラはいなくなっており、前いた場所には「れいかいのぬの」というアイテムが落ちている。それを拾うと、どこからともなく「お手紙…… 届けてくれて ありがとう……」と、声が響く。
以上が「ふるびたてがみ」にまつわるエピソードである。ポーラはフランクと別れたあと、病気で亡くなってしまったのだろう。それでも「フランクくん」への思いが忘れられず幽霊となり、主人公の前に現れたと思われる。
その正体が幽霊であろうと、女の子が気持ちを伝える手伝いができたのだ。怖いよりも切なく、そしてちょっと誇らしい気持ちになれるホラーイベントだった。
初代『ポケットモンスター 赤・緑』の「シオンタウン」から始まった伝統は20年以上続き、多くのホラーイベントや心霊スポットを生み出してきた。恐怖も『ポケモン』の風物詩なのだ。
残念ながら、最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』には、これといったホラーイベントが存在しない。いずれ来るだろう次回作でホラー要素は復活するのだろうか? その暁には、また多くの子どもたちに忘れられない思い出を刻み込むことだろう。






