「仲間にできないの!?」敵ながら魅力的…歴代『ファイアーエムブレム』美しき女性ボスたちの悲しいドラマの画像
スーパーファミコン用ソフト『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』(任天堂) 写真/ふたまん+編集部 (C)1996 NINTENDO

 1990年にファミリーコンピュータ用ソフトとして第1作『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』が発売され、今年で35周年を迎えたシミュレーションRPGの金字塔『ファイアーエムブレム』シリーズ(任天堂)。

 戦争をテーマにした同シリーズでは、主人公陣営のキャラたちだけではなく、相手側にもそれぞれしっかりとした立場や考えが用意されており、目の前に立ちはだかる敵ながらもプレイヤーの心を揺さぶる魅力的なキャラクターは少なくない。その中でも特に印象的なのが、美しく、強く、そしてどこか哀しげな過去を背負った女性敵幹部たちの存在だ。

「この人を本当に倒してしまっていいのか……?」戦場のど真ん中でこのように一瞬でもためらってしまったプレイヤーは多いはず。

 今回は、そんな倒すのが惜しくなるほど魅力的だった女性ボスたちを振り返ってみたい。

※本記事には作品の内容を含みます 

■聖戦士の末裔『聖戦の系譜』のイシュタル

 まず最初に挙げたいのは、1996年のスーパーファミコン用ソフト『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』に登場する魔導士・イシュタルである。彼女はユグドラル大陸を支配するグランベル帝国の王族・フリージ家の公女で、かつての十二聖戦士の一人、魔法騎士トードの血を引く由緒ある家系の才媛だ。

 その美貌はもちろん、戦場で見せる静かで冷たい表情が魅力。そしてまだ10代の少女でありながら、強力な雷魔法「トールハンマー」を操るという、威風堂々とした姿がプレイヤーの強烈な印象を与えるキャラクターだ。

 だが、彼女が単なる敵将で終わらないのは、その背景にある切ない物語ゆえだ。

 イシュタルは、主人公・セリスと対立するグランベル帝国の皇子ユリウスの恋人という立場にある。だが、ユリウスは暗黒神への生贄にするため、「子ども狩り」と称して各地から子どもたちを集めていた。

 そんなユリウスのやり方に、イシュタルは疑問を抱き、さらわれた子どもたちを密かに逃がしていた心優しい一面が明らかになる

 そんな姿を目にしているからこそ、彼女と戦うことになったときにプレイヤーとしては戸惑いを覚える。イシュタルとは戦場で何度も相まみえるが、そのたび「説得すれば仲間になるのではないか?」と思ったのではないだろうか。

 『ファイアーエムブレム』シリーズでは、まれに隣接したキャラ同士が会話する「はなす」コマンドが登場し、説得することによって敵陣から仲間に引き入れることができる場合がある。

 美形キャラは説得により仲間にできるパターンが多く、イシュタルは美形でしかも少女。そのうえ、優しい一面も持っている。となると、やはり彼女もまた仲間にできる敵なのではないかと多くのプレイヤーが思ったはずだ。

 しかし、彼女は愛するユリウスの側にとどまることを選び、忠義を貫く。結果として、プレイヤーの手で倒さざるを得ない運命に陥る。

 仲間にできそうで仲間にできない。イシュタルは、これまでのファンにも大きな衝撃を与えた存在であった。

■冷徹な暗殺者『烈火の剣』のウルスラ

 次に紹介するのは、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された『ファイアーエムブレム 烈火の剣』(2003年)に登場する暗殺組織「黒い牙」の幹部「四牙」の一人・ウルスラだ。

 濃い青髪とクールな瞳が特徴的な美女であるが、冷静沈着で任務には一切の感情を挟まないプロフェッショナルな暗殺者といった趣だ。

 美形であることから仲間にできるのでは、と考えたプレイヤーもいたかもしれないが、「ね、あなた……死ぬのは、怖い?」といった他人を見下したような言動もとる「悪女」タイプのキャラであり、やはり仲間にすることはできない。

 彼女との最終決戦は、戦いも終盤となる第26章「夜明け前の攻防」であり、ここは「索敵マップ」という暗闇に覆われた舞台での戦い。

 ウルスラは暗闇の中に潜み、遠距離攻撃のできる雷魔法・サンダーストームを繰り出す。いきなり飛んでくるのでかなり手ごわい相手という印象が強い。

 接近して倒してしまうことは可能だが、このマップは一定のターンの間、特定のキャラを守り切ることがクリア条件となっており、倒さなくてもいいのだ。

 だが、倒さずにクリアをしてしまうと、自らの失敗を恥じて、「失敗には死あるのみ」と、覚悟を語るシーンがある。そして、上司にあたるリムステラによって処断され、結局命を落としてしまうのである。

 戦闘中に語られるセリフは少ないながらも、彼女の生き様は「敵にも物語がある」というシリーズの魅力を体現しているといえるかもしれない。

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