■敵として現れた悲しき正義『トラキア776』のアマルダ
最後に取り上げるのは、スーパーファミコン『ファイアーエムブレム トラキア776』(1999年)に登場する女将軍・アマルダだ。同作は前述した『聖戦の系譜』の同時代を描く外伝作品で、シリーズでも屈指の難易度で知られるタイトル。
アマルダは、その重厚な物語の中でも印象に残る女性キャラクターの一人である。
彼女は主人公・リーフ軍と敵対するフリージの将軍であるが、グランベル帝国の子ども狩りには反対の立場をとり、心を痛めている人物だ。その言動からも、彼女の苦悩が痛いほど伝わってくる。
彼女とは最初に17章「5月の雨」で敵として相まみえることになる。ここでは倒さなくても構わないのだが、19章「帝国の反撃」で再登場する。これまでの彼女の言動から、倒さずに仲間にしたいと思うプレイヤーも多いだろう。
実は同作は15章でルートが2つに分岐するようになっており、東ルートと西ルートで微妙に違う物語が描かれる。西ルートを選択した場合、16章でまず神父・スルーフが仲間に加わり、彼が説得することで19章で再登場するアマルダを仲間にすることができるのだ。
だが、東ルートを選択した場合はスルーフが仲間にならないため、彼女を倒す道へと物語が進んでいく。一方では仲間になり、また一方では強敵として戦う。選択次第で運命が変わる、同シリーズならではの悲劇のひとつだ。
『ファイアーエムブレム』シリーズに登場する女幹部たちは、単なる「敵」ではなく、物語の中でプレイヤーに正義とは何かを問いかける存在でもある。彼女たちは時に主君への忠義に生き、時に信念と矛盾に揺れながら、それでも武器を手に取る。その姿には、ただ美しいだけでなく、人間としての強さや儚さがある。
イシュタル、ウルスラ、アマルダ。どのキャラクターも、立場こそ違えど、それぞれの信念と感情を抱えて戦っていた。敵ながらに敬意すら抱くような彼女たちとの戦いは、プレイヤーの記憶にいつまでも残る、忘れがたい瞬間だったといえよう。