甲子園での成績は…?あだち充の名作「高校野球漫画」各チームは「最後の夏」どこまで勝ち上がったのか 『ナイン』『タッチ』『H2』『クロスゲーム』…の画像
少年サンデーコミックス『タッチ』完全復刻版第1巻(小学館)

 青春と恋愛、そして高校野球を巧みに織り交ぜる独自の作風を持つあだち充氏。彼の人気作『タッチ』『H2』『クロスゲーム』(いずれも小学館)では、どの物語も主人公が甲子園を目指すも、実際にどこまで勝ち上がったのか、その結末はバラバラだったりする。

 今回は、それぞれの作品で主人公がどこまで勝ち上がったのかを検証し、あだち充作品ならではの終わり方を振り返ってみたい。

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

■甲子園ベスト8も試合描写はわずか2話! あだち充初の単独連載『ナイン』

 まずは、1978年から1980年にかけて『週刊少年サンデー増刊号』で連載された『ナイン』は、他の作品と比べて知名度は高くないかもしれないが、あだち氏の高校野球漫画を語るうえでは外せない。それまで原作者とコンビを組んできたあだち氏にとって、転機となる「単独連載」作品だからだ。

 中学で短距離走の記録を持つ主人公・新見克也が、ヒロインの中尾百合との出会いをきっかけに青秀高校野球部に入り、3年間の青春を過ごす『ナイン』。

 克也が3年生の夏に青秀高校は甲子園に出場し、準々決勝では克也が甲子園史上初のパーフェクトスチール(二盗、三盗、ホームスチールを全ておこなうこと)を決めて注目を集める。しかし、最後はサヨナラ負けを喫し、甲子園ベスト8で彼らの高校野球は終わりを告げた。

 本作は野球の描写がかなり少なく、「甲子園編」はわずか2話だ。野球より青春劇な“あだち節”はこの頃から健在だったともいえるだろう。

 ちなみに最終話では「卒業アルバムの巻」と題し、克也たち3年生が引退試合として紅白戦で盛り上がったり、卒業後の進路に思いを馳せたりと、ごく普通の高校生の生活が描かれた。甲子園の激しい試合の後に、女子も混ざったお遊びの試合で締められるのも、なんだかあだち氏らしい。

■実は唯一甲子園優勝が確定している『タッチ』

 次は、あだち氏の大出世作『タッチ』だ。

 主人公・上杉達也は夢半ばにして亡くなった弟の和也に代わり、幼馴染の浅倉南が幼い頃に語った“自分の幼馴染が甲子園の投手だったら最高”という夢のため、甲子園を目指す。そして、高校3年の夏には地方大会決勝で大本命の須見工業高校を下し、見事に甲子園出場を決めた。

 高校球界屈指の強打者・新田明男を打ち取り、達也が南の夢と和也の意志を叶えた瞬間は涙なしには見られない。だが、その後の戦績はどうだったのだろうか。

 原作では、達也率いる明青学園の甲子園での試合は描かれないまま、最終話を迎える。最終話は甲子園がとっくに終わった秋の話で、達也や南はごく普通の日常を過ごしていた。

 そして最終ページで唐突に「第68回 全国高校野球選手権 優勝」の記念皿が映され、『タッチ』は幕を閉じた。明青学園の甲子園での戦いが最高の結果に終わったことを、最後の最後に明かす演出に痺れた読者は多い。

 いちファンの視点で言うと、達也が甲子園で躍動する姿も見たかった。だが、達也は最終話直前の第256話で、南への告白というある意味、甲子園優勝よりカッコいい姿を読者に見せてくれた。それで十分なのかもしれない。

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