
多くのドラマが高い視聴率を獲得していた90年代、「清楚系女優」として人気を博した女優がいた。それが、裕木奈江さんだ。
裕木さんは2018年に約23年ぶりの民放連続ドラマ『FINAL CUT』(フジテレビ系)に登場。亀梨和也さん演じる主人公の心優しい母親として存在感を発揮し、その変わらぬ美貌が話題となった。
そんな彼女は、90年代には“嫌われ女優”と称されることもあった。2024年には裕木さんも自身の公式Xで、かつて自身が「女性に嫌われる女優1位」になったことについて触れていたが、当時は激しいバッシングを受ける立場でもあった。
ただ、裕木さんが当時、ドラマや映画、CMで存在感のある演技を見せていたのもまた事実。90年代を代表する素晴らしい女優であったことは間違いない。今回は、そんな裕木さんの魅力が特に光ったドラマ作品を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■演技力の高さで視聴者の反感を買ってしまった!?『ポケベルが鳴らなくて』
『ポケベルが鳴らなくて』は、1993年に日本テレビ系列で放送されたドラマだ。当時は女子高校生からビジネスマンにいたるまで、多くの人が日常生活で「ポケベル」を使っていた。本作は、このポケベルを恋愛のメッセージツールとしてストーリーに絡ませた物語である。
あらすじはこうだ。家庭のある大手商社のサラリーマン・水谷誠司(緒形拳さん)は、海外出張中に知り合った29歳年下の保坂育未(裕木さん)と不倫関係になる。育未は誠司の娘・梢子(坂井真紀さん)の親友だったこともあり、水谷家はこの不倫をきっかけにどんどん崩れていくのである。
裕木さんが世間からバッシングを受け始めたのは、このドラマがきっかけだったと言われている。本作で裕木さんは、幸せな家庭を壊した“魔性の女”のイメージが強くついてしまい、その後、特に女性からの好感度が低くなってしまったようだ。
しかし冷静に考えれば、“魔性の女”と呼ばれたのは、それだけ裕木さんに高い演技力があったからに他ならない。彼女はドラマでの役柄を体現しただけであり、うるんだ瞳で切なく誠司を見つめる裕木さんの演技は、今見てもドキッとしてしまう。演技があまりにリアルなため、仮にこんな女性が夫の身の回りにいたら……そんな想像をして、裕木さんに反感を持った女性も少なくなかったのかもしれない。
また90年代の社会は、不倫をすると男性よりも女性に対するバッシングが強かった印象がある。もしも令和の今、このドラマが放送されたら、当時のような裕木さんに対するバッシングは起きていないのではないだろうか。
■裕木さんの体当たりの演技が光る『ウーマンドリーム』
次は、1992年にフジテレビで放送されたドラマ『ウーマンドリーム』(原作:小林信彦さん『極東セレナーデ』)である。
物語は田舎町で祖母と2人暮らしをしていた少女・朝倉利奈(裕木さん)が、死んだと思っていた母親が東京で生きていることを知って上京するところから始まる。上京後、アルバイト中にスカウトマンの氷川秋彦(内藤剛志さん)に見出され、アイドルとしてデビューする話だ。
作中、裕木さんは過酷な警備員のアルバイトをしたり、高層ビルでゴンドラに乗ってガラス拭きをするシーンにも挑戦している。
また、歩道橋の上で氷川と派手に喧嘩するシーンでは、洋服やカバンで思い切りお互いを叩き合い、顔面スレスレのところで大声で罵り合っている。しかもここで氷川は火のついた花火を持って利奈に近づいているのだが、それが裕木さんの衣装スレスレの位置にあり、火傷しないかハラハラしてしまうほどだ。
こうしたシーンからもわかるように、裕木さんはおしとやかなイメージとは裏腹に、どんな役柄にも果敢に挑んでいる。このあとに放送された『ポケベルが鳴らなくて』の役柄は、あくまで一面でしかないのだ。
ちなみに、本作はドラマと現実世界を巧みにリンクさせており、ドラマ内で利奈が名乗る芸名は「裕木奈江」という自身の芸名だ。さらにドラマ内でリリースされるデビュー曲は、実際にCDとしても発売。現実とフィクションをシンクロさせる手法は当時話題となっていた。