「松下由樹の怪演がヤバイ…」視聴困難な名作ドラマ『想い出にかわるまで』令和にこそ観たい「深すぎるラスト」【激レア名作ドラマ発掘隊】の画像
松下由樹 撮影/有坂政晴

 トレンディドラマに沸いた90年代。次々と生み出される名作ドラマは、バブルを象徴する煌びやかな街並みや衣装、目まぐるしく変化していくストーリーと見どころも多く、今の時代には再現できない独特の勢いと魅力がある。

 1990年1月からTBS系で放送された『想い出にかわるまで』もそのひとつ。ドロドロ劇に定評のある内館牧子氏が脚本を手掛けた同作は、今井美樹さん、松下由樹さん演じる姉妹が、石田純一さん演じる一人の男性を取り合うというラブストーリー。二転三転する展開に、多くの視聴者が夢中になった90年代の名作ドラマだ。

 松下さんは現在、テレビ東京系列の深夜ドラマ『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』で、若者に異常なまでの執着心を見せる芸能マネジャー・吉川恵子を演じており、その怪演が話題を集めている。

 今回は、そんな松下さんの名演技が光った『想い出にかわるまで』を振り返っていく。

※本記事には作品の内容を含みます。

■行動力のある妹と迷いやすい姉が一人の男性を巡って…

 主人公は、印刷工業を営む父・良夫(伊東四朗さん)と母・登美子(佐藤オリエさん)、妹・久美子(松下由樹さん)、弟・清治(大沢樹生さん)と暮らす、今井美樹さん演じる沢村るり子。石田純一さん演じるエリートサラリーマン・高原直也との結婚も間近に控え、傍から見ると順風満帆だが、実は妹の久美子も高原に片思いしているという裏事情があった。

 るり子は次第に高原との価値観の違いからマリッジブルーになり、さらにパーティで知り合ったカメラマン・水口浩二(財津和夫さん)に惹かれてしまう。久美子は、そんなるり子を叱咤しつつ、少しずつ高原との距離を縮めていく。

 後日、るり子が高原の親への挨拶に現れないという事件が起こる。これはるり子が水口とともにエレベーターに閉じ込められたせいなのだが、90年代のドラマはこうした「スマホがあれば……」というすれ違いが多々起こる。

 さて、ドタキャン事件を機にるり子&高原の結婚は延期になり、そんな二人にイライラしたのが久美子である。感情を抑えきれなくなった彼女は、フラフラする姉に怒りを露わにすると、高原に告白してしまう。

 そして高原は、流れで久美子と“男女関係”を持ってしまうのだ。久美子はるり子にそれを伝えて宣戦布告。姉妹は泥沼の三角関係を展開していくこととなる。

 姉妹で同じ人を好きになるとは、あまりにも地獄。一本気な久美子と迷いやすいるり子という性格の違いが対比にもなっており、視聴者はどちらの視点で見るかによって感想が変わる作品であるとも言える。

■当時は嫌われた?キャストの熱演が作品を彩る

 同作を見ていた視聴者の多くは、姉に横恋慕する久美子に「ひどい!」と感じたことだろう。

 実際、当時は松下由樹さんに非難の声が寄せられたそうで、これまでインタビューなどで『想い出にかわるまで』について、「役と同じじゃないのかと同業者からも嫌われた」と明かしている。

 「あんな妹、絶対イヤだ」という世間の声も大きく、戸惑いもあったという。裏を返せば、見事に役柄を自分のものにした松下さんの演技力を裏付けるエピソードであることは言うまでもない。

 ただ、今回久しぶりに全話を視聴してみると、筆者は久美子よりも、別の男性にフラッとしたり、高原のふとした一言に反応して拗ねたり、結婚を延期したりと、何かとくすぶるるり子にモヤモヤしてしまった。これは歳を重ねて見え方が変わったということであろうか……。

 とはいえ、高原を愛しながらも久美子を想い葛藤する姿は胸が痛くなるほど切なかった。慎重で考えすぎなるり子が、もう少し行動を変えていたら違う結末が待っていたのかもしれない。

 姉妹の間をフラフラする高原もモヤモヤポイントが高い。優しい性格ゆえ、久美子のような女性に迫られると弱いのかもしれないが、彼の行動が姉妹どちらも傷つけていたのではないだろうか……。だが、そんな高原を平成のトレンディ俳優・石田純一さんがマイルドな演技で魅せることで「これはこれでアリかも」と思ってしまうから不思議である。

 沢村家のキャラクターも印象的だ。たとえば弟・清治を演じた大沢樹生さんは、自分も大学受験や水口の妹・さやか(高樹沙耶さん)への恋など悩みを抱えているにも関わらず、バラバラになる家族のために動いたりと健気。彼が潤滑油のような役割を担っていた部分もあるだろう。さらにモラハラ気味な父・伊東四朗さんと気ままな家族に、母・佐藤オリエさんが主婦のリアルな言葉をぶつけた喧嘩シーンは、現実でもありうるリアルさがあった。同作は、姉妹の恋を軸にそんな家族が崩壊から再生を果たす物語でもあるのだ。

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