
1982年にデビューし、「花の82年組」として爆発的人気を誇ったキョンキョンこと小泉今日子さん。ブラウン管の向こう側で、天使のような笑顔をふりまく彼女に夢中になったという人は多いだろう。
現在は女優として活躍しており、4月14日から放送されている『最後から二番目の恋』の“続々編”『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)は、この春一番の話題作となっている。
『あいしあってるかい!』『あなただけ見えない』『パパとなっちゃん』など、多くの人気ドラマに出演してきた小泉さん。初主演作となったのは1985年放送の『少女に何が起ったか』である。
TBS、大映テレビ制作による同作は、平均視聴率21%を超えるヒットを記録。アイドルとしてのキョンキョンとはまた違う一面が見られる作品でもあった。今回は、サブスク配信もされておらず、視聴機会の減ってしまったドラマ『少女に何が起ったか』を振り返りたい。
※本記事は作品の核心部分の内容を含みます。
■ピアノの才能を持つ少女の数奇な運命
同作は、主人公・野川雪が自身の出生の謎を探りながらピアニストを目指して人生を切り開く物語だ。漫画のような展開や強烈なセリフが飛び出す、『スチュワーデス物語』や『赤いシリーズ』を手がけた増村保造さんの脚本による、古き良き昭和の大映ドラマだ。
小泉今日子さん演じる野川雪は、北海道の抜海漁業組合で働きながら病に侵された母(市毛良枝さん)と二人で暮らす18歳。母想いの彼女は、村人から「父無し子」と影口を叩かれながらも懸命に母を支えていた。
父親は、名門・東音楽大学学長の息子であり天才ピアニストの東雪彦。かつて東家の家政婦だった母と父が駆け落ち同然で北海道に移住し、その後、雪彦は病気で命を落としていた。
そんな折、雪に「東雪彦の娘だと認めさせるために東京の東家の屋敷にいけ」と遺言を残し、母が命を落としてしまう。一人ぼっちになった雪は、東家を恨んでいたものの母の言葉に従い東京に行くことを決意する。
ここで謎の男・鈴木芳太郎(宇津井健さん)が登場。彼は母が雪の後見を頼んだ人物で重要な役割なのだが、正体を明かす前に母が死んだため、終盤まで謎の男として雪のサポート役になっていく。
鈴木の助けを受けて東家に乗り込んだ雪は、持ち前の気の強さで雪彦の娘だと主張するが、一族は雪が財産を狙っているのではと敵視し、娘だとは認めなかった。証拠がないので仕方のないことである。
しかし、雪彦が娘宛に書いた楽譜を雪が所持していたことで、学長は「雪にピアノの才能があるかを確かめる」と、娘だという真偽の決着がつくまで使用人として彼女を屋敷に住まわせることに。かくして雪は、敵だらけの東家でピアニストを目指し孤軍奮闘することになるのだった。
過酷な生い立ちの少女がピアノを通じて幸せを手にするまでを描く同作。誰が見ても入り込みやすい設定が、多くの視聴者の心を掴んだのかもしれない。
■「薄汚ぇシンデレラ!」雪を追い詰める敵のキャラが濃い
同作は、全編を通して小泉さんに光があたる作品だ。ドロドロした物語の中でコロコロと表情を変える彼女がかわいらしく、大きなリアクションもドラマ性を盛り上げる要素になっている。
見どころは多々あるが、中でも紙で作った鍵盤で練習するシーンは強烈だ。「紙の鍵盤じゃ指が沈まない!」と嘆きながら一心不乱に床を叩く雪の姿はシュール。だが、真剣な眼差しを見ていると思わず応援したくなってしまうのである。
そんな雪の数少ない味方として、前述した鈴木芳太郎にも触れておきたい。鈴木は作中で、雪がベランダに「赤いハンカチ」を吊るすと現れる。「毎日見に来てるの?」という疑問は浮かぶものの、彼なしでは雪は夢を叶えることも難しかったはず。そんな彼が後々大きな鍵を握るとは誰が想像できたであろうか……。
鈴木同様、最初から最後まで雪を支えたピアニストの大津先生(辰巳拓郎さん)や、東一族で唯一雪を助けた美津子の兄・信之(柳沢慎吾さん)、“野良猫ガッツ”でお嬢様軍団から雪を守る特待生たちも雪にとって心強い存在だった。特に、コミカルな演技を見せる柳沢さんは、ある意味“変わらなさ”が癒しを与えてくれる。
一方、敵役は味方たちのキャラが霞むほどにクセが強い。
その最たる人物が「薄汚ぇシンデレラ!」というセリフでおなじみの川村刑事(石立鉄男さん)だろう。彼は雪を調査をする刑事で、なぜか毎晩0時になるとフラッと現れては雪を煽り倒して帰っていく。通常であればかなり嫌な人物なのだが、雪をベタベタと触ったりシンデレラの絵本を持ってきたりと謎の行動も多く、どこか憎めない面白さがあるのだ。
そんな川村刑事を雇った東家には、学長の娘・貴恵(岸田今日子さん)、その夫の久之(長門裕之さん)、貴恵の妹であり理事長の節子(辺見マリさん)と、大御所の名がと並ぶ。この豪華な顔ぶれの中で若き日の小泉さんが奮闘したと思うと、胸が熱くなってしまう。
賀来千香子さん演じる東家の令嬢・美津子も名キャラだ。常に取り巻きを引き連れる典型的なお嬢様である彼女は、根はイイ子ながら大津先生への嫉妬もあり、雪に誰よりも辛辣に当たっている。改めて見返すとさほどキツイいじめをしているわけでもないが、当時は「美津子いじわるすぎ!」と感じた視聴者も多いのではないだろうか。ちなみに、彼女の取り巻き役として、高木美保さんや高橋ひとみさんも出演している。