■幻想的なタッチで描かれる霊の世界!『百鬼夜行抄』

 『百鬼夜行抄』は、1995年から『ネムキ』(現:Nemuki+)で連載中の今市子氏の霊能ホラーだ。同作は、霊魂や妖魔が見える主人公・飯嶋律が、様々な怪異と出会う様子を1話完結で描く漫画で、単なる怖さだけではない不思議な魅力がある。

 数多くのエピソードの中でも、特に印象深いのが『人形供養』だ。

 同エピソードは星野奈々江という大学生の身の周りに起きた恐怖を描いた一編。彼女は実家住まいで、祖父と両親、姉・依子、病気で寝たきりになっている兄・聖人と6人で暮らすが、ある日を境に、「家族が偽物と入れ替わって人間のフリをしている」と怯えるようになる。その恐怖に耐えられなくなった奈々江は、同じ大学に通う霊能力者・広瀬晶に助けを求め、その従弟である主人公・律も事件に巻き込まれてしまう。

 調査のため奈々江の家を訪れた律たちだったが、そこに現れたのは「従兄」を名乗る男性・宏だった。彼は奈々江の兄である聖人に会いたがるが、なぜか奈々江一家は「ああ宏さんていうのね」と、宏を親族として認識しない。そして宏は衝撃的な事実を口にする。奈々江が「兄」と呼ぶ聖人は、実は宏の弟であり、15年前に母親とともにこの家を訪れたきり、帰ってきていないというのだ。

 違和感を覚えた律らは、家に伝わる蔵の中で7つの木箱と家族に似た6体の人形を見つけ、奈々江一家が人形と入れ替わっていると察知した。そして逃げようと家を探索する中で、なぜか子どもの姿のままの聖人を見つけてしまう。

 いよいよこの家族はおかしいと怯えていると、虚ろな眼差しの姉・依子が、「かつて聖人を死に至らしめたが、人形が死んだ家族の身代わりをしてくれた」と恐ろしい真実を語り出す。

 以来、じわじわと家族を乗っ取った人形は、7体のうち最後の1体分の人間の依り代を探していたのである。人形の目論見を知った律らは家を出るも、すでに聖人と奈々江は人形の手に落ちていた。宏は聖人が入れ替わったことにパニックになり、再び人形家族が待つ家に戻ってしまうのだった。

 やはり、いつの時代も呪いの人形をテーマにしたホラーは恐ろしい。やや複雑な話ではあるものの、“戦わない霊能力者”という斬新な設定がストーリー性を深めている。

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