■みんな何かの役を演じながら生きている『AIRドクター』
2013年『春の特別編』で放送された『AIRドクター』。同作は漫画『団地ともお』の作者である小田扉さんの短編『もどき』を実写化した作品で、“偽物”たちが大きなドラマを生み出すコメディだ。
ホノルル行きの機内で男が倒れ、乗務員が乗客に「この中にお医者様はいませんか?」と問いかける。挙手したのは桐原亨(小栗旬さん)。だが、彼は実は医者ではなかった。医学試験に落ち借金苦から死に場所を探して搭乗していた偽物だった。
急患への処置を頼まれ、つい「はい」と名乗りを挙げてしまった桐原は、患者の容体が変わり本物の医者として緊急オペをすることに。ただ、それを一人で行うことはできない。乗務員が乗客に「看護師」と「麻酔士」がいるか聞いて回ると、二人が「はい」と手を挙げる。だが実は彼らもまた偽物。看護師と名乗った女性は、普段はコスプレバーでナースのコスプレをしているだけの偽物で、麻酔士を名乗った男性は普段は編集者をしている「増井」さんで、「ますいしさんいらっしゃいますか?」と聞かれ、つい返事をしてしまった。オペが大ごとになり、今さら違うと言い出せずにいたのだった。
ここから、乗務員はハイジャックを目論む革命軍のメンバーで、その乗客員を人質に取ったハイジャック犯は休暇を満喫したいただのサラリーマンで、パイロットは食中毒で倒れた本物の代わりに操縦桿を握る乗務員という、怒涛の偽物告白ラッシュが始まる。つまり、全員が引くに引けない状況に陥っていたのだ。個人的にツボだったのは、時計と勘違いされた温度計が「私は時計ではない」と突っ込む場面である。
一方の桐原は「器具がない」と断るが、エアギター世界チャンピオンと勘違いされた本物の医者(彼は過去の医療ミスがトラウマでオペできない)が器具を差し出す。「あるのか〜」と落胆する桐原。本物の医者ではと疑われた医者はバレないようにエアギターを披露し、あまりの下手さに「偽物」コールが起こる。
そのとき、少年が「偽者なんかじゃないよ!」と声をあげる。少年の言葉は全ての偽物の心に突き刺さり、前向きになった彼らは一致団結。偽医療班は手術を成功させ、偽パイロットは乱気流を乗り超えてハワイに辿り着く。偽物の意地を見せた一行は、未来に希望を見出しながら別れるのだった。
ラストは、空港で強盗に警察かと聞かれた桐原が「私は警察ではない」と思いながら強盗に向かって歩くシーンで締めくくられる。彼はその後、どうなったのだろうか……。
『世にも奇妙な物語』のコメディは、笑えるだけでなくどれもオチに捻りが効いていて“奇妙”な世界観が見事に表現されている。これからも、笑いと謎に満ちた名作が生まれることに期待したい。