■シュールなおもしろさ!なぜか記憶に残る名作『夜汽車の男』

 続いては、2002年放送の『春の特別編』で登場した『夜汽車の男』を振り返る。同作は泉昌之(久住昌之さんと泉晴紀さんのコンビ名)の漫画『夜行』を原作にした作品で、“男が真剣に駅弁を食べる”というシンプルな題材をこれでもかと煮詰めた、感動と笑いが味わえる名作だ。

 薄暗い夜の列車内で、大杉漣さん演じる男が駅弁を取り出す。中身は黒ごまと梅干しの乗ったごはんと、定番のだし巻き玉子、かまぼこ、しいたけと人参とかぼちゃの煮物、きんぴら、ブロッコリーの天ぷら、しば漬け、ウグイス豆、二つのフライだ。男はこのフライの中身が、白身魚とイカリングだと確信していた。

 男は、西洋風でも東洋風でもない独自の食事スタイルを追及する。おかずの攻め方、そしておかずとのバランスを考慮したご飯の攻め方を考えるのだ。そして締めをイカリングと決めると、醤油とソースとマヨネーズの使い方に惑わされつつも一つ一つの料理を堪能していく。

 ついにイカリングに到達した男は、幼少期にイカリングをくれた少女のことを思い出し、涙を流しながら口に運ぶ。が、ぼうぜんとした顔でぽろりとフライを落とし、一言つぶやく。

「たまねぎ……」

 駅弁へのこだわりからオチまで完璧なストーリーである。これだけ本気で駅弁と向き合える人がいるだろうか。大杉さんの真剣さがより笑い誘う、『世にも奇妙』屈指の不思議なコメディ回だろう。

 どこか『孤独のグルメ』感のある作風だが、それもそのはず、原作の久住昌之さんは『孤独のグルメ』の作者だ。今作の他には、2009年に同番組で放送された『理想のスキヤキ』も泉昌之の『最後の晩餐』を元にした作品である。こちらはスキヤキに強いこだわりを持つ男が婚約者の家でスキヤキを食べるという、シュールさ全開の良作だ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4