■かっこよすぎる「スーパーばあさん」ルシール・ベルヌイユ

 続いては藤田和日郎氏の漫画『からくりサーカス』より、黒いロングドレスに身を包み、荘厳さをまとうルシール・ベルヌイユだ。

 人類の敵である自動人形と、それに立ち向かう「しろがね」の長きに渡る戦いを描く同作。ルシールは息子を、自動人形“最古の四人”のうちの一人・ドットーレに殺された過去を持ち、「最古のしろがね」として自動人形を壊すマシーンのように生きてきた。一方で娘・アンジェリーナに苦難の人生を歩ませた後悔も抱えており、表情を持たないしろがねながらも、心の底に残る母性を見せるキャラ。「からくり編」最終幕では、そんなルシールの劇的な散り様が描かれた。

 サハラ砂漠で真夜中のサーカスとの最後の戦いに挑んだしろがねたち。崇拝するフランシーヌ人形を守る最古の四人の強さに手も足も出ず大ピンチに陥るが、ドットーレの破壊を目論むルシールが突破口を開く。

 息子の死を煽るドットーレに、ルシールは“親であることも人間であることも捨てた自分はどんな過去にも心を乱されない”と冷静に語る。そして、自分の娘・アンジェリーナがフランシーヌ人形に瓜二つであることを利用して作った偽物の人形を繰り出し、「ひかえよ」と命じたのだった。

 自動人形たちはもともとフランシーヌ人形のために作られた存在ゆえ、彼女を否定すれば生きていられない。そのため、偽物とわかっていても最古の四人は命令に背くことができない。ルシールは一度は立ち上がったものの完全には足を動かせないドットーレに、「あんたは動けるんだね」「フランシーヌ様に忠誠心が足りないんじゃないかえ?」と罵り倒し、「フランシーヌなど、自分になんの関係もない── …と思ってごらん?」と自由になるための方法を促す。冷静なルシールと怒りで我を失うドットーレの対比が見事な名シーンだ。

 ドットーレは葛藤したものの、ついに挑発に乗り「フランシーヌなど、己(オレ)に関係ないわ!」と禁断の言葉を口にしてしまう。動いたドットーレはルシールを切り裂くが、全身から体液を流し絶望の声とともに崩壊していく。ルシールは自分の命と引き換えにする形でドットーレに“絶望”という人間の負の感情を与え、200年の恨みを晴らしたのだ。散り際にミンシアに残した名言もしかり、強さだけではない、最後の最後まで気高い女性であった。

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