■遊び心あふれるアドリブと主要メンバーが欠けても揺るがない娯楽性
続編シリーズのタイトルの変遷からも分かるように、本作の随所から制作陣やキャストの遊び心が感じられる。同作のプロデューサーを務めた元東映の田中憲吾さんは自身のブログのなかで、『三匹が斬る!』のコンセプトは「時代劇らしくない面白い時代劇を」だったことを明かした。
あえて“現代風”のエンタメを盛り込んだ時代劇を作ることで幅広い年代から支持され、根強いファン層の獲得につながったのかもしれない。結果としてBSやCSでの再放送も好調である。
また本作はド派手な殺陣シーンのほかに、千石とたこによるゆかいな掛け合いも魅力だった。前述した田中プロデューサーによると、実はその多くが役所さんと小朝さんによる「アドリブ」だったという。
一応、キャラクターに合わせて事前打ち合わせはするものの、本番はアドリブ全開でセリフを変えるスタイルが定着。現場では笑いをこらえるのが大変だったそうだ。
高橋さんが別の時代劇『江戸の用心棒』(1995年放映)に出演することになると、劇中で「(殿様は)江戸で用心棒でもやってるんじゃないのか」と千石がそれをネタにするなど、とても時代劇とは思えないユーモアたっぷりの一幕もあった。
そして忘れてはならないのが、“四匹め”となる吉良右近役を演じた近藤真彦さんの存在だろう。映画撮影のために第6シリーズに出られなかった役所広司さん、別番組出演のために出られなかった第7シリーズの高橋英樹さんの穴を埋める大役を担った。近藤さんといえば80年代を代表するトップアイドルであり、当時はまだアイドルの時代劇出演は珍しい時代だったのだ。
赤穂浪士の敵役・吉良上野介の子孫という血筋や、戦う相手の流派をたずねたうえで、その同じ流派を使って倒すなど、かなり華々しい人物設定だったのも印象深い。
余談であるが、吉良右近の加入以降、劇中の恋愛要素が増えたのは、やはり初期メンバーよりも若い近藤さんが加わった影響かもしれない。
いつもの曜日のいつもの時間、チャンネルを回せばそこにおなじみのメンバーが現れて刀を振るい、悪を成敗する。そんなお約束のような展開に安心し、喝采を送るのは時代劇の魅力のひとつだ。
『三匹が斬る!』はそんな時代劇のなかでも、とくにエンタメ的に視聴者を楽しませてくれる要素がギュッと詰まった、時代を先取りした最高の娯楽チャンバラ作品といえるだろう。再放送もいいが、そろそろあの3人組が活躍する新作を観てみたいと思うのは、筆者だけではないはずだ。