■3人の休日を同時進行で描く「休日エンジョイ日記の巻」

 最後は、コミックス59巻に収録されている「休日エンジョイ日記の巻」を見ていきたい。同エピソードの実験的要素は、両津、中川、麗子の休日を三段に分け、並行して描く群像劇スタイルという点である。

『こち亀』では「20年今昔物語の巻」や「人生色いろ!の巻」のように、上下で別の物語が展開される実験回はしばしば登場したが、3分割展開は珍しいと言えよう。

 3人の物語は、夕方6時からスタートする。ページ上段で進むのは中川のエピソードだ。警察官と会社社長の二足のわらじを履く中川は、父と祖父の代わりに商談をすべくニューヨークに直行。

 商談をこなしたその足でロンドンに移動して仕事をすると、街中で偶然麗子に出会った。短い休日に2か国を移動するとは、さすが御曹司。あまりにも規格外な休日である。

 中川と出会った麗子の物語は下段で展開する。麗子は、迎えの車に乗り込むと通訳のお手伝いがてら豪華なパーティに参加。そこにイギリスの友人から祝賀パーティのお誘いの電話が入り、急遽イギリスに飛んでパーティをはしごしゴージャスな休日を過ごす。ロンドンで中川に会うと、両さんをネタに優雅なランチを楽しみ帰路に着くのだった。

 そして、中段は両さんの物語。待ちに待った休日にウキウキな両さんはレンタルビデオを借りて家に帰るが、例のごとく現れたゴキブリと壮絶なバトルを繰り広げ、ドタバタしているうちに朝を迎えてしまう。

 3時間かけて何とか2か月分の洗濯物を片づけるも、一休みしてしまい万事休す。そのまま爆睡し、何もせずに終わるといういかにも両さんらしい休日を過ごしていた。

 アクティブな中川&麗子に対し、ゴキブリと戦って寝ただけの両さんという強烈な対比が同時に進行する新しい試みに、思わず笑ってしまうエピソードである。

 このほかにも、ペン入れだけのページを掲載し、仕上げを読者に任せるという「火の用心の巻」の“漫画家国家試験”などさまざまな実験回があった。普通の漫画ならあり得ない奇抜な表現方法を違和感なくやってのけてしまうのも、『こち亀』ならではの魅力だろう。

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