漫画表現の限界に挑戦?秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』奇抜すぎるアイデアに驚いた「伝説の実験回」の画像
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』セレクション1 “人情編” [DVD](バンダイビジュアル)

 1976年の連載開始以来、40年間一度も休むことなく『週刊少年ジャンプ』を支え続けた秋本治氏の漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。未来を先取りするような風刺ネタが描かれたり、お腹を抱えて笑える痛快ギャグが描かれたりと、2000話もある膨大なエピソードは今なお読者を惹きつけてやまない内容ばかりだ。

 毎週掲載された『こち亀』の中では、たとえば、ページが横になったり斜めになったりする「ページめくりにくいと言わないで!の巻」(151巻)や、両津が描かれない「想像力漫画の巻」(63巻)のように、斬新なコマ割り・ページ表現で読者の度肝を抜く“実験回”がしばしばあった。今回は、そんな“実験回”をいくつか振り返ってみよう。

■ページ2倍の大ボリューム「ハーフサイズ漫画の巻」

 まずは、コミックス61巻に収録されている「ハーフサイズ漫画の巻」を振り返りたい。このエピソードは通常の1ページの中にハーフサイズの見開き2ページ分が描かれたもので、初っ端から中川が「今回はページが多いですね!」と言っているように、実質大増38ページの大ボリュームの構成。2話分のページ数が縮小され掲載されたタイトル通りのハーフサイズ漫画だった。

 しかも、この回は扉絵に表表紙と裏表紙のイラストまで描かれており、全ページを切り取って組み立てることでミニコミックスが完成するという画期的な作りとなっている。両さんは拡大コピーすればほかの漫画と同じと言っていたが、これまた中川の「読みづらいですよ」というツッコミもごもっともで笑ってしまう。

 物語は、夏休みの安全指導の一環で、河童に扮した両さんが子どもたちに水辺の危険性を伝えるという内容だ。リアルなコスプレをし、首に縄をつけられて引っ張られる両さんはまさに河童そのもの。

 その後、子どもたちから馬鹿にされ派出所メンバーとすったもんだしているところに泥棒が現れ、河童姿の両さんの大捕り物が始まる。川に飛び込んだ犯人を相模湾まで泳いで追いかけると、「隅田川を泳ぐ河童」とヘリ中継されるほど注目を集めるのだった。

 普通に読んでも良し、切り取ってミニコミックス工作をするも良し、複数の楽しみ方ができる斬新な実験回である。

■『こち亀』初の実写描写!「劇画刑事・星 逃田IIの巻」

 続いては「劇画刑事・星 逃田IIの巻」(18巻)のエピソード。この回の主人公は、劇画刑事こと星逃田である。『ゴルゴ13』のような濃い顔をした彼は、性格もハードボイルド。毎度ドタバタ劇を繰り広げては、両さんらに突っ込まれるという個性的なキャラだ。同エピソードでは、そんな星がトーン3枚重ねという作業工程の多い衣装で現れ、“漫画”という媒体をフルに利用してやりたい放題。

「読者のみなさんにリアルにてっしたニュー劇画をおみせしよう」と言い、“ニューウェーブハード劇画”と題して本物の写真を背景に使い始める。しかも、これだけだと『ゲゲゲの鬼太郎』になってしまうと自らも実写化し、男A(実写)と銃撃戦を繰り広げるというカオスなストーリーを6コマに渡って展開した。ちなみに、6コマで終わったのは星いわく“疲れるから”だそうだ。

 実写版の星を演じたのはかつて秋本氏のアシスタントをしていた、漫画家のとみさわ千夏こと富沢信一氏で、カメラ担当は秋本氏本人。秋本氏らしい、何とも遊び心あふれるやり方だ。

 その後も星は、読者に語りかけながら「コマが4段なんてだれが決めた?」と8段コマ割りにしたり、8段にしたらしたで「コマが小さいためにアップが多くなってしまう」と言ってみたり、さらには「ならば絵を無くしてしまえばいい」と文字だけで物語を進め、ハチャメチャぶりを発揮していた。

 また同エピソードには、星逃田初登場回で両さんが似てると言っていた亜月裕氏の漫画『伊賀野カバ丸』のカバ丸や、江口寿史氏の漫画『すすめ!!パイレーツ』の恥可苦馬という豪華なゲストも登場している。実写、変則コマ割り、他漫画キャラ乱入と面白いネタが盛りだくさんなエピソードだ。

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