『不思議のダンジョン 風来のシレン』シリーズの最新作『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』のSteam版が12月12日にリリースとなった。
遊ぶたびにダンジョンやマップの形が変わる「ローグライク」ジャンルのゲームとして人気を集め続ける同シリーズ。そのはじまりは今から約31年前、『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』(1990年、エニックス 現:スクウェア・エニックス)に登場したキャラクター・トルネコを主人公にしたスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』(1993年、チュンソフト 現:スパイク・チュンソフト)だった。
それまでの家庭用ゲームでは広まっていなかったローグライクゲームを見事に成功させ、キャッチコピー通り「1000回遊べるRPG」として多くの子どもたちを夢中にさせた同作。その初代作がなぜトルネコを主人公としていたのか、『トルネコの大冒険』のなにがすごかったのか、改めて振り返ってみたい。
■トルネコだからこそ生きたシステム
『トルネコの大冒険』とは、武器商人のトルネコが、入るたびにダンジョンの形が変わり、出てくるアイテムも異なる「不思議のダンジョン」に眠る伝説のお宝を探しに行くゲームだ。
この「毎回ダンジョンが違う」というのがとにかく驚きだった。
手に入るアイテムも、武器や盾のほか、特殊効果がある指輪、薬草やメダパニ草、飲んだり敵に投げつけたりして使う草、そしていろいろな魔法の効果がある巻物や杖と、様々なものが登場する。決まったルートや攻略法はなく、そのとき手に入るアイテムでそのつど違った攻略法を模索しなければならず、なかなか一筋縄ではいかないゲームであった。
失敗を繰り返して攻略を楽しむ、ローグライクゲームの魅力を家庭用ゲーム機に落とし込み、大成功した同作だが、そもそもなぜ主人公がトルネコだったのか?
豊富なキャラクターが登場する『ドラクエ4』において、ライアンやアリーナと比べてトルネコはそれほど人気キャラというわけではなく、主力としては使わなかったというプレイヤーも多かったのではないだろうか。『ドラクエ』初のスピンオフ作品に、そんなトルネコを起用し、大ヒットに導いたチュンソフトの英断には恐れ入るばかりだ。
開発に携わったチュンソフトの中村光一氏は、「電ファミニコゲーマー」でのインタビューで、敵を倒していくことに重きを置いたゲームではないことがその理由だったと発言。「いろんなアイテムを駆使して進んでいくゲームであり、妙にせせこましいものなのです。だから、コミカルなキャラが似合っているんです」とトルネコ抜擢の秘話を明かしている。
このゲームは、慣れるまでは非常に難易度が高く、しょっちゅうダンジョンで倒れてしまう。その倒れ方も、モンスターに倒されるだけではなく、地雷を踏んでやられたり、腹ペコで倒れたりとさまざま。
トルネコといえば、本編でもずっこけたりと、けっしてかっこいいキャラではない。ファミコン、スーパーファミコン当時に子どもたちの間で大ブームとなっていた「ドラクエ4コマ」でも、トルネコはほぼコミカルなネタキャラとして描かれていた。その点で、腹が減りすぎて、やむをえずくさったパンを食べてお腹を壊す……といった描写は、たしかに勇者やアリーナよりもずっとトルネコのほうが似合う。
しかもやられたら、ももんじゃにダンジョンから蹴り飛ばされて追い出されるというシーンもある。トルネコならなにをやらせても大丈夫というのは、いささか気の毒な面もあるが、ゲーム性をわかりやすく描くことができるのがトルネコというキャラだったのだろう。
■やられたらレベル1に戻る それでもまた行きたくなるダンジョン
一度やられたらレベルが1に戻ってしまい、また1階からやり直し。しかも手に入れた武器やアイテムもすべて失ってしまうというシステムに、最初は「どこが面白いんだよ!」と感じた人も多かったはずだ。
だが、不思議のダンジョンには「リレミトの巻物」があり、それを使って脱出すれば武器やアイテムを持ち帰ることができる。
しかも道中で手に入る「バイキルトの巻物」や「スカラの巻物」を使って武器や盾を強化することができるので、ダンジョンに何度も入り、少しずつ武器や盾を強くしていくことで先に進めるようになるということに気づく。
この少しずつ武器や盾を強化できるという点に、多くのプレイヤーは心をくすぐられたはず。
トルネコはレベル1に戻ってしまうが、強化した武器や盾はそのままでダンジョンに持ち込める。これを繰り返すことでどんどんダンジョンの奥に行けるようになり、そこに快感を覚えたものである。
だが、初めて降りるフロアにはどんな敵が待っているかわからず、油断すると強い武器や盾を持っていてもやられてしまうということがあった。やられてしまえばせっかく強化した武器や盾も失ってしまい、また1からやりなおしである。心が折れるところであるが、それがまた探求心をくすぐった。
もうこの時点で、プレイヤーたちは立派な武器商人になっていたのである。