■食べ物を粗末にした子どものホラー体験『恐怖の昼休み』

 続いては、2014年に解散したTHE BOOMの楽曲『恐怖の昼休み』を振り返る。この曲は、宮沢和史さんが『みんなのうた』のために書き下ろしたもので、1991年に放送された。

 この曲の主人公は、嫌いな給食を何でも机に突っ込んで隠す小学生のかずや。ある日、かずやがぶどうパンをいつものように机の中に突っ込むと、机が恐ろしい形相に変化し「中がカビだらけで日曜は笑い者にされる」と襲いかかってきた。

 大暴れするかずやの机につられて、周囲の机も手当たり次第に教科書やクラスメイトを食べ始め、教室は大パニックに。かずやは必死で謝るも、ついに食べられてしまう。万事休すと思われたその時、遠くから母の声がして……。

 という食べ残しへの風刺の曲なのだが、古川タクさんによる素朴でコミカルなイラストが可愛らしく基本的におどろおどろしい雰囲気はない。だが、中盤からのサイケデリックなホラー描写とのギャップが激しく、当時、この曲を見て「怖い」という感想を抱いた子どもは多かったはず。給食を隠した経験がある子ほど、怖くなってしまうのではないだろうか。

 その一方、曲調はスタイリッシュなジャズ風で非常にテンポがいい。インパクトの強いフレーズを繰り返すことで大人も子どももノリやすくなっており、歌いたくなる曲でもあった。

■大人になって気づく怖さ?!ホラーチックなポップソング『メロンの切り目』

 細川ふみえさんが歌う『メロンの切り目』が放送されたのは1993年のこと。作詞・朝水彼方さん、作曲・川村結花さんによって制作されており、日本を代表するアニメーター・もりやまゆうじさんが映像を手掛けている。

 楽曲の中では、ロングヘアの女性が彼の家でエプロンをつけ、サラダを作りながらけなげに彼を待つ……という恋する乙女の可愛い姿が映し出される。もりやまさんのイラストゆえ、イラストは大人っぽく、まるでアニメを見ているような美しさだ。曲調もポップで、細川さんのふわふわした声とよくマッチしている。

 ただ、この曲が怖いと言われるのはその歌詞だ。子どもの頃はピンとこないが、大人になると改めてその怖さに震えるという「時差型トラウマ曲」なのである。

 まず、この曲の主人公女性は“彼に叱られること”を目的に、こっそりスペアキーで男性宅に入っている。メロンに切り目を入れて自分の存在を示そうとしているあたり、彼は彼女が家に上がっていることを知らないのだろう。しかも、歌詞から読み取る限り、連日入り込んでいるようなのだ。

 その後、彼女は彼を待たず、サラダを作りエプロンをあえて置いて家を出るが、二人の関係は曲中で明かされていない。スペアキーも、貰ったものなのか勝手に作ったものなのか判別がつかない。可愛いイラストと、一歩間違えればストーカーに見えてしまう内容に、ちょっとしたゾクゾク感が味わえる楽曲である。

 トラウマ曲と一言で言っても、映像が怖いものもあれば歌詞が怖い曲もあり、トラウマの方向性も様々だ。人によって怖いと感じた楽曲は違うが、どの曲もインパクトが強いからこそ長きに渡って人々の記憶に残るのだろう。

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