『タッチ』新田由加に『H2』小山内美歩も「王道ツンデレが愛しすぎる…」あだち充作品「ひねくれ系女子」たちの号泣エピソードの画像
少年サンデーコミックス『タッチ』完全復刻版第13巻(小学館)

『タッチ』『H2』『ラフ』『MIX』などなど、数々の名作漫画を手がけてきた漫画家・あだち充氏。あだち漫画では、浅倉南のような素直で誰からも好かれるキャラが描かれる一方、「ひねくれた性格」のキャラが登場することも珍しくない。そして、性格が悪く、好きになれるとは思えなかった彼、彼女たちがいつの間にかお気に入りになっていることも多い。

 今回は氏の代表作である『タッチ』と『H2』からそんな「ひねくれ女子」の名エピソードを振り返りたい。

■努力する姿が憎めない「新田由加」

 あだち充漫画の「ひねくれキャラ」として、『タッチ』の須見工業高校のスラッガー・新田明夫の妹・新田由加をまず一番に思い浮かべる人は多いだろう。彼女は上杉達也や浅倉南より2学年下の女子生徒。達也に惚れて明青学園野球部にマネージャーとして入部したキャラクターだ。 

 彼女はイケメン兄を見て育っているためか男子への当たりが強く、パッと見は美少女ではあるもののヤンキー生徒にも屈しない非常に気の強い性格の持ち主。そのうえ、合気道の心得もあり、ケンカが強いため、人間関係の輪を崩すことをいとわずに我を通してしまう。超優等生であるヒロイン・南とはまるで違うタイプであるのだが、「実はいいやつ」な面をいくつも持っているのだ。

 それが、彼女の意外な弱点が描かれた「合宿での料理事件」だ。

 彼女は柏葉新監督のキツいあたりにもめげず、南がいなくなったあとの野球部マネージャーを一人でこなすが、ひょうひょうとした表情の裏で大きな苦労があった。お嬢様育ちだった由加には料理が下手という弱点があったのだ。

 レシピ本を読んで作ってみるが、キャベツとレタスの違いすら分からない。そのうえ、気合いを入れてドイツ料理に挑戦したりする。上手く作ろうとする心意気はあるものの、当然その出来は悪く、部員たちは料理のほとんどをそっと残し、深夜に南の喫茶店「南風」へ脱走。

 表面的にはマネージャーをやめたものの、野球部員の空腹を心配した南は、気を遣って野球部伝統のスタミナ料理のレシピを渡す。だが、施しを受ける気になれない由佳はそれを捨ててしまう。南は気づかない間に、由佳のプライドをズタズタにしてしまったのだった。

 それでも投げ出さずに由加が一生懸命料理を練習しているのを見た達也は、努力をする姿を好ましく思ったのか、助け船を出す。素直にアドバイスを聞くことが出来ない由加に、おにぎりを握ってもらい、レシピ本にある上品な料理よりも、スタミナ料理のほうが部員たちは好きだとアドバイスする。その不格好なおにぎりを美味いと褒められた由加は、一度は捨てたレシピを探した。

 そして、そのスタミナ料理を部員たちに食べさせ、達也と由加はアイコンタクトをする。ひねくれた由加の努力を無駄にさせない達也の気遣いと、不器用ながらも頑張る由加の姿に心温まるエピソードだ。

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